愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心

「きゃっ!?」

 私が咄嗟に腕で頭や顔をガードしたことで箱は腕に当たって地面に落ちる。

 男の人はそれを見届けると、無言で走り去って行った。

「……痛……。何なのよ、一体……」

 地面に落ちたそれを拾い上げてみると、その箱はケーキの入った箱で、【Patisserie KURUSU】と印字されている。

「これ……うちのケーキ……?」

 そう呟いたとき、騒ぎに気付いたらしい父が店の中から外へ出て来る。

「侑那、何かあったのか?」
「え!? あ、ううん、大丈夫! ちょっと、大きな虫が飛んで来てびっくりしちゃって!」

 私は咄嗟にケーキの箱を隠して誤魔化した。

「そうか。何も無いなら良かったよ」
「うん、ごめんね、驚かせて。あ、私お店の外の掃除するね!」
「ああ、頼むよ」

 私に何も無いと分かった父は安心した様子で店の中へ戻って行き、私はそんな父に気づかれないようケーキの箱を持ちながらお店に入り、袋にそれを入れて掃除用具を手にした。

 そして、こっそりショーケースを覗いてみると、ショートケーキが四つほど、売れていることが分かった。

 久しぶりのお客さんが来て、買って貰えたケーキ。

 でも、それは食べる為なんかじゃなくて、嫌がらせでお店の周りに捨てる為。

 私にぶつけられたケーキこそが今日売れたケーキだと分かったから胸が凄く痛んだし、こんなこと、絶対父には知られたくないって思った。
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