愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
 そして、求人募集を見つけてから数日後――。

 悩みに悩んだ末、私はオーナーに事情を話した上で求人の申し込みをして、指定された日時に上澤家に面接へとやって来た。

 オーナーは採用されたら正式に辞める形で良いよと言ってくれたので、万が一採用され無くても職を失うことが無いとひと安心。

「……っていうか、いつ見ても凄い御屋敷……」

 実は、今回面接に来たこの上澤家の御屋敷は私の住む町から電車で三駅程の町にあって、高校の頃は通学路としてこの近くを通っていた。

 通る度に友達と『凄い御屋敷だね、こんなところに住めたら良いよね』なんて話していたのを思い出す。

 まさかこんな形でこの屋敷に足を踏み入れることになるなんて思いもしなかった私は呼び鈴を鳴らして『面接を希望した者です』と告げると、中からスーツ姿で眼鏡を掛けた三、四十代くらいのインテリ風の男の人が出て来て、彼に案内されて応接室のような部屋へ通された。

 そして、待つこと数分、再び先程の男性がファイルを片手に現れると、簡単な質疑応答から始まり家庭の事情など深い部分まで根掘り葉掘り聞かれることに。

 面接をしてくれたこの男の人は上澤家使用人で責任者の如月(きさらぎ) 尚文(なおふみ)さん。

 彼はまるでアンドロイドなのではというくらいに表情が乏しく、真面目を絵に書いたような人という印象だった。

 十五分程の面接を終えた私はいつ頃結果が出るのかと思っていると、

「――それでは来栖様、明日よりこちらで働いて頂けますか? 住み込みですが、勤務中は制服がありますし、タオルなどの備品は全てこちらでご用意致しますので、荷物は最低限でよろしくお願い致しますね」
「……へ?」
「ですから、貴方を採用しますので、明日からお願いします――と申しております」

 何が決め手だったのか、何故か採用が決定したことを告げられた。

(え? 採用? 何で?)

 採用されたことは勿論嬉しいけれど、何だか腑に落ちない。
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