愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
 その瞬間、玄関先に立つ巴さんの視線が私ではなく本堂くんへと向けられていることに気づく。

 遅れてそれに気づいた本堂くんは抱えていた荷物を胸に引き寄せたまま、笑顔を凍らせて黙り込んだ。

「……随分と仲が良いようだな」

 低く抑えた声。

 怒鳴ってはいないのに、はっきりと分かる苛立ちが滲んでいるのが分かる。

「お前は確か本堂だったな。運転手として雇われているはずだが……女と私語を交わせと教えられたか?」

 本堂くんがびくりと肩を震わせた。

「す、すみません! 荷物が重そうだったので、つい……!」
「“つい”で済む話じゃない。勤務中の私語は慎めと教えられていないのかと聞いている」

 一歩、巴さんが近づくとそれだけで本堂くんは反射的に後ずさり、怯えた顔を隠そうともしなかった。

「き、如月さんに呼ばれてますので! 失礼します!」

 逃げるようにその場を去っていく背中を、私はただ見送ることしか出来なかった。

 残された私は、何か言わなきゃと思うのに喉が張り付いたみたいで声が出ない。

「……言ったはずだ」

 視線を逸らしたまま巴さんが短く息を吐く。

「他の男を見るなと。その意味が分からなかったか? 見るなというのは、勤務中に仲良く話すなという意味も含まれている。それとも――俺の前でわざと男と仲良くしているのか?」

 胸が、どくんと強く鳴った。

 言われていることが理不尽だと分かっているのに、心臓は怖いくらいに高鳴っている。

(……なに、これ)

 次の瞬間、腕を強く掴まれた。

「来い」

 有無を言わせない声。

 振りほどくこともできないまま私は引きずられるようにお屋敷へ連れて行かれ、廊下を抜けて巴さんの部屋の前へと辿り着く。

 扉が開き、閉まる音が静寂に響いた。

 ようやく腕を離された私は小さく息を吸う。

「あの……巴、様……」
「お前は俺の専属メイドだ」

 淡々とした声で、けれど逃げ場のない言葉。

「俺のものに、他の奴が近づくのが気に入らない。そう思うことは……面倒か?」

 それは、紛れもない嫉妬だった。

 けれど本人は、それに気づいていないのか――あるいは認める気がないのだろう。

 突然突きつけられた独占欲に、私は言葉を失ったまま立ち尽くす。

 怖いはずなのに、息が詰まるほど苦しいのに、胸の奥では別の感情が確かに熱を持っていた。
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