愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
「――分かったら下がれ」
「……は、はい……」

 これ以上話すことは無いという意思表示なのか、そっぽを向いた巴さんに下がれと言われた私は頷くと部屋を出た。

 そして、廊下を曲がったところでその場に立ち止まる。

「……見るな、って」

 小さく呟いてから、はっとして口を噤む。

 誰もいないはずなのに、どうしてか聞かれてはいけない気がした。

 巴さんは、さっきの言葉をどんな意味で口にしたのだろうか。

 自分の専属メイドが他の男の人と話すことは、そんなにも気に入らないのだろうか。

(分からない……)

 初めは横暴な人だとは思っていたけど、関わりが深くなるにつれて、少し言い方や人との距離感を取るのが苦手なだけで、悪い人では無いと思っていた。

(でも、さっきの発言は、横暴以外の何物でもないような気がする……)

 巴さんの発言は戸惑いの原因となって、私の中で深くなっていく。

 それから数日後の夕方、来客があるということで準備で人手が足りず、私と本堂くんで買い出しをすることに。

 本来なら一人で済む仕事だったけれど、買う物の数が多いこともあって男手が必要だろうという配慮から、それならばと本堂くんが車を出してくれることになったのだ。

(巴さんは外出してるし、そもそもこれは如月さんから頼まれたことだもん、仕方ないよね)

「やっぱり、車に乗せるなら女の子の方がいいよなぁ~」

 彼の運転する車の助手席に乗っていると、急にそんなことを言い出した。

「……あまり、そういう言い方は」

 誰が聞いている訳では無いけれど、今は仕事中だからとやんわりと注意するも、彼はきょとんと目を瞬かせた。

「え? あ、ごめん、別に変な意味で言った訳じゃないんだ……」

 本堂くんには悪気がない。

 本当に、これっぽっちも。

 だからこそ、強く言えない。

「うん、それは分かってるけど、やっぱり仕事中に発言することじゃないと思うからさ」
「そっか! 来栖さんって結構真面目なんだね」
「そんなことは無いよ」

 本堂くんはこういう人なのだ。

 異性だからという意識が薄いから、無意識のうちに踏み込んでくる。

 それを分かっているからこそ、私が気をつけなければいけない。

 買い物を終え、駐車場から荷物を運んでいると、ちょうど玄関先に巴さんが立っていた。

 視線が一瞬で私たちを捉えたその時、

「来栖さん、重いでしょ? 俺が持つよ」

 私が持っている荷物が重いことを気遣った本堂くんが当然のように荷物を持ってくれる。

 あくまでも善意の行動だけど、巴さんに見られている中での行動とあって、背筋が冷えるのを感じていた。
< 60 / 61 >

この作品をシェア

pagetop