愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
 巴さんはしばらく黙っていたものの、やがて小さく息を吐いて、

「……理解出来ない感情だな」

 そう言いながらも私から目を逸らさない。

「だが、不快なのは事実だ。お前が他の男と親しくするのは……嫌だ」

 言い切る声に迷いがなくて、私は思わず息を呑んだ。

やっぱり巴さんは、気づいてないのだ。

 それが、恋だということに。

 私を特別に見ているということに。

 その事実に胸の奥がぎゅっと締めつけられながらも、

「……私は巴様の専属メイドです」

 慎重に言葉を選ぶ。

「でも、私には私の気持ちがあります。巴様がそうやって縛るような言い方をすると……私は困ります」

 それは本音だった。

 巴さんはわずかに目を見開いた。

「何故だ?」
「私は、ものでは無いからです」
「それは当たり前だろう?」
「そうです。でも、先程の巴様の言動は、自分のものだと言っているように聞こえてしまうんです」
「…………」
 
 私の言葉を聞いた巴さんは再び黙り込み――どこか困ったように視線を逸らした。

「……そうか」

 低い声だけど、怒りではなく戸惑いが滲んでいる。

「なら……どうすればいい?」

 そんな巴さんを前にした私は小さく微笑んでしまった。

「そうですね、まずは、相手を思いやる気持ちを持つこと……です。何でも頭ごなしに否定するのではなくて、相手の意見にも耳を傾けてください。それが、相手を知る一歩だと、私は思います」
「……譲歩する」

 偉そうなことを言ってしまったかもしれないのに巴さんは責めることもなく、私の話にきちんと耳を傾けてくれたことが嬉しかった。
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