愛を知らない御曹司は専属メイドにご執心
 それから巴さんは周りも驚く程に変わっていった。

 私が本堂くんや他の異性の使用人の話をすると、機嫌が悪くなることはあるけれど、以前のように高圧的になることは無くなった。

 私が嫌だと思うことを避けてくれているのか、距離を測りながら近づこうとする不器用さが愛おしく思えてしまう。

 そんな巴さんの変化は私の心も確実に揺らしていて、気づけば私は巴さんの視線や言葉に、以前よりも強く胸を高鳴らせるようになっていた。

 私はいつも通り巴さんの私室で、彼に言われた仕事をこなしていく。

 書類を整え、お菓子を運んで紅茶を淹れ、必要なことを淡々とこなす――それは専属メイドとしての日常だった。

「……お前も、少し休め」

 その日はたまたま寝不足気味で、見えないように小さく欠伸をしてしまった後、不意にそう言われて私は思わず手を止めた。

「いえ、まだ仕事がありますから――」
「無理をするな」

 遮るように言われて顔を上げると巴さんは書類から目を離してこちらを見ていた。

 命令でも叱責でもない、ただ気遣うような視線と言葉に胸がざわついた。

「疲れているように見えるからな、無理をする必要は無い」

 その言葉は使用人に向ける言葉ではなく、まるで――私を案じているように聞こえたから。

「私は大丈夫ですから。お気遣いありがとうございます」
「駄目だ、お前の大丈夫は信用出来ない」

 大丈夫と言っても巴さんは聞いてはくれず、

「俺の目を誤魔化せると思うな。明らかに疲れが出てる。俺が良いと言ったんだから少し休め」

 そこまで言われてしまうと休まない訳にはいかないので、

「分かりました、それでは少しだけ、休憩を取らせてもらいますね」

 頷いてほんの少しだけ休憩をすることを伝えると、

「――それでいい。お前が倒れたら困るからな」
 
 そんな言葉が返ってきた。

 その瞬間、私は巴さんに問いかけたくなった。

 今のその言葉はどういう意味で口にしたのかを。
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