令嬢は農地改革から始めるそうです 〜王都を飛び出したら人生が充実しすぎて困る〜

第16話 令嬢、誰かを託される

「問題児たちが、村に来るそうですわ」

王都から届いた文書。
それは行政主導の“開拓支援教育プロジェクト”という名の……要は“難あり生徒の実地研修依頼”だった。

「素行に難があり、王都で手に負えない若者たちを、“村で耕すことで”更生と自律を促す」

「すごく……表現が耕作的ですわ……」

だが、アメリア・ルヴァリエは即答した。

「受け入れましょう。わたくし、“育てること”には慣れておりますの」

「鍬で殴るのはナシですよ、お嬢様!!」



数日後、カレジア村にやってきた“預かり子”たち。

・レオン:元貴族子息。反抗的で口数少なく、孤立型。
・サラ:冷笑系才媛。開拓に懐疑的。政治に興味。
・リット:口だけ達者なトラブルメーカー。自己演出型。

リリアは言った。
「三人合わせて“胃薬三本組”ですわ……」

アメリアは彼らを“特別実習生”として迎え、初日に宣言した。

「この村では、“誰かに言われて動く”のではなく、“自分で考えて耕す”のです」

「ふーん。じゃあ好きにさせてもらいますよ」
(レオン)

「自治って、理想論ですけど。記録はさせていただきます」
(サラ)

「オレ、収穫担当ね。絵になりますし」
(リット)

村人たちも戸惑いながら受け入れる。

・リットが市場で値段を“勝手に演出”→混乱。
・サラが村の帳簿を「非効率」と改稿→逆に誰も読めず。
・レオンが畑で一人沈黙→ヤギだけ懐く。

アメリアは焦らず、ただ一言。

「土は、すぐには耕されませんの」

そして彼女は、静かに“村の日常”へ彼らを導いていく。

「あなたたちが“ここにいてもいい”と、あなた自身で耕すまで」

研修3日目。

村の空気は、わずかに変わっていた。

リットが市場で「芋じゃなくて“人柄”を売る」と言い始め、客の会話を拾って「あなたに合う干し芋診断」を勝手に始めた。

「貴方には“しっとり芋”ですね、穏やかな午後が似合いそうです!」

「う、嬉しい……けど何この接客……!」

混乱は生んだが、なぜか売上は伸びていた。

「商売とは、物じゃなくて物語を売ること!」(本人談)

アメリアは、黙ってうなずいた。

「方法はともかく、村と“会話”し始めてますわね」

サラは書庫に入り浸り、村の帳簿と資料を読み込み続けていた。

「この村、制度の意図は素晴らしいのに、文体が中世です」

彼女は黙々と、行政文書の様式をリライト。

ルヴァ使用報告書、委任状、物資在庫表。

「簡潔に。伝わるように」

やがてリリアがその書類を見て、ぽつりと言った。

「……読みやすい。分かりやすい……私、書類に怯えなくていいんですのね……!」

サラは、珍しく微笑んだ。

「“知ってもらえる仕組み”があれば、人は理解できます」

アメリアはつぶやいた。

「言葉もまた、耕すものですわね……」

レオンは相変わらず畑の端で黙々と作業をしていた。
だが、そこに毎日来る者がいた。

――ティナだった。

「レオン、お水いる?」

「……ああ、ありがとう」

「この畝、ちょっと斜めだね」

「……風で崩れて、直した」

「ふふ。じゃあ“レオン畝”って名付けよう!」

「勝手に名前つけるな」

「でも、“誰が耕したか”って、ちゃんと見ておきたいんだ」

その一言で、レオンの手がふと止まり、空を見た。

その日から、畝の端に小さな札が立った。

【レオンの畝】

アメリアはそれを見て、静かに呟いた。

「“働いた証”を、誰かが見てくれること――それが、耕す者の誇りなのですわ」

その夜、アメリアは三人を講堂に呼び寄せた。

「あなたたちに、感謝を伝えたくて」

「……感謝?」

「ええ。あなたたちがこの村に“影響された”ことも、そして“影響した”ことも、等しく大きな意味があります。村は、ひとつの教室ではありません。ひとつの世界です。ここで、何を耕したか。それは、あなたたち自身が決めること」

レオンはぼそっと言った。

「……悪くない。村ってのも」

サラは資料を閉じて頷いた。

「ここは、“理論だけでは測れない空気”があります」

リットは胸を張った。

「オレ、次は“村内司会業”に挑戦したい!」

「逸れましたわね!?!」

村の広場に、即席の舞台が作られた。

横断幕には――

【特別実習生 成果発表と卒業式】
〜胃薬三本組、ついに卒業!?〜

「タイトルが余計ですわ!!」

アメリアの抗議もむなしく、村人たちはすでに祭モードだった。

司会:リット(本人志願)
構成:サラ(プログラム編成と配布)
音響:ゼクス(石スピーカー)
控え室管理:リリア(顔が真っ赤)

開会の辞を任されたのはレオンだった。

「……あー……えっと……その……」

\がんばれー! レオンー!/(村の子どもたち)

「……お世話になりました。……この村の畝が、好きです」

(※村人の8割が泣く)

続いてサラによる「村制度改善提案とその試行報告」。

「村の行政文書に、構造的な情報の漏れと記述様式の非統一性がありました。そこで、“わかる仕組み”を前提とした再編を行いました」

「要するに、読めるようになったんですの!!」

リリアが叫ぶ。

「感情が爆発してますが、改善の証拠です」

最後にリット。

「オレは!村で!いちばんウケた男になりました!!」

\それは本当だ!!/(ルーク)

「次なる夢は、“村広報と婚活の融合!” 略して“恋報係”!」

「その企画は、後で村会議に提出ですわ!」

だがその後、リットが真顔で言った。

「オレ、この村が好きだって、ちゃんと胸張って言える。ここにいて、“見てくれる人”がいるから」

アメリアは、最後にこう語った。

「人は、耕されると変わります。そして、耕した者の心もまた。今日という日が、“村にとっても彼らにとっても”ひとつの種になりますように」

卒業式のあと、夜の村は静かだった。

だが広場には、小さな焚き火が灯り、村人たちが三人の“特別実習生”を囲んでいた。

「……これ、渡しとく」
リリアが差し出したのは、三人分の“村オリジナル手帳”。

「これ、あなたたちの“耕した記録”です」

表紙にはそれぞれの名前と、象徴するアイコンが刻まれていた。

【レオン】→畝と鍬と小さな苗木
【サラ】→石板と羽ペンと笑顔の数字
【リット】→干し芋と拡声器とハート(謎)

ゼクスが無言でそれを差し出し、頷いた。

「村で“何をしたか”じゃない。“誰と耕したか”が、残るんです」
(ティナ)

「……ありがとう」
(レオン)

「“また資料整理しに来ます”からね。予定表に入れておいて」
(サラ)

「絶対、次は“村司会選手権”に出るからな!」
(リット)

アメリアは、三人に最後の言葉を贈った。

「開拓とは、“始まり”だけの言葉ではありません。別れにも、成長にも、“次の畑へ進む”という意味があります。あなたたちが耕したのは、土地ではなく、“人との距離”でした。……誇って、いいのですわ」

サラの目に、そっと光が揺れた。

そして三人が村を出る朝。

レオンは鍬を一本背負っていた。

「村で、ひとつ“自分の道具”を持って帰れと言われたからな」

サラは帳簿を大事に抱えていた。

「私はこの“自治記録”を王都で広めてみる」

リットは、なぜか“干し芋を詰めたギフト袋”を村人全員に配って回っていた。

「オレがいないと寂しいだろ!? 芋でも見て思い出してくれよな!!」

アメリアは、丘の上から小さく手を振った。

「わたくしは、あなたたちを“育てた”などとは思いません。ただ、あなたたちが“耕せる場所”を見つけられたこと、それを何より誇りに思いますわ」

風が吹いた。
畑が揺れた。
そしてまた、ひとつの出会いが、村に“痕跡”を残した。
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