令嬢は農地改革から始めるそうです 〜王都を飛び出したら人生が充実しすぎて困る〜

第20話 令嬢、国境を越えて干し芋を語ります

「アメリア様、王都からの通達です!」

リリアが駆け込んできた書簡をアメリアが開くと、そこには鮮やかな異国の紋章が浮かび上がっていた。

『隣国セスティア王国より、開拓自治村・カレジアへの視察団を派遣することが決定いたしました』

「ついに、“国をまたぐ開拓交流”ですのね」

王都経由で話が進められ、連盟代表としてアメリアの村が“視察受け入れ先”に選ばれたのだった。

【視察予定者】
・シャルナ・ヴェレント姫(セスティア王国第三王女/好奇心と品格の塊)
・クロイ・ディラン(王室付き戦略顧問/堅物かつ交渉至上主義)
・その他随行官、翻訳士、料理係、荷物運び2名、なぜか鷹使い

リリアが言った。
「お嬢様、“この村、受け入れ準備できてます?”」

アメリアは優雅にうなずいた。

「わたくしたちには、鍬も芋も笑顔もございますの」

ルーク「あと棒人間の外交パンフ、刷っときました!」

リリア「そこは刷らなくてよかったですわ!!」

数日後。

視察団が到着するや否や、村の空気は一変した。

「セスティア王国代表、シャルナ・ヴェレントでございますわ。本日は“土に触れる覚悟”でまいりましたの」

「わたくし、アメリア・ルヴァリエ。干し芋で外交する女ですの」

「え? 今何て?」(クロイ)

シャルナ姫は芋畑を見て目を輝かせた。
「この土の匂い……“暮らし”の香りがしますわ!」

クロイ顧問は資料を広げながら唸った。
「自治率92%、住民直接参加型制度、恋愛観察制度……なんだこの村……」

リリアが小声で言った。

「お嬢様、文化摩擦、すでに全方位ですわ……」

アメリアは、にこりと笑った。

「ならば、丁寧に耕してまいりましょう」

視察2日目。

午前:村内案内と土壌視察。
午後:“歓迎の意”を込めたカレジア流お茶会。

問題は、その“午後”に起きた。

アメリアは、村の中央広場にて
【干し芋&村茶 試食式お茶会】を用意していた。

「ようこそ、セスティアの皆さま。こちらが“カレジア流歓迎の茶卓”ですの」

シャルナ姫「まあ……! 素朴で温かみがありますわ!」

クロイ顧問「……卓にクロスもなく、中央に焼き芋が積まれている……?」

アメリア「“焼きたて”が信頼の証ですの」

リリア「(お嬢様、顧問の眉が10秒で三段階に寄っております……!)」

アメリア「構いませんわ。“火の通ったお芋”は、言葉の壁も超えますの」

ティナ(ささやき)「お芋で超えてくれるかなぁ……」

会ははじまり、村の代表たちが笑顔で干し芋を差し出す中――

クロイ顧問、芋を見て真顔で言った。

「これは……“手で取って直接口に運ぶ”ものか?」

「ええ。もちろんですわ」

「……セスティア王宮では、必ず“銀器”で食すことが礼儀だ」

「では、今日は“銀の心”で召し上がってくださいませ」

ルーク(吹き出す)「銀の心!!」

姫はにこやかに一口。
「美味しいですわ!とっても!」

クロイ(絶句)「姫……!」

その後も、
・干し芋の皮むき文化についての質疑応答
・石板に刻まれた“農業礼法”の見学
・ルークによる“鍬舞演武”の披露(棒人間解説つき)
と、
“文化衝突未遂”が3回発生した。

だが、どれも最後は姫の一言でやわらげられた。

「わたくし、ここの空気、とても好きですの。暮らしが“形”ではなく“意味”を持っている……。これは、国を超える学びですわ」

クロイ顧問はため息をつきながら、ぽつりと。

「……外交とは、“距離の再定義”だな」

アメリアは微笑んだ。

「そして鍬とは、“心の間合い”を測る道具ですの」

視察3日目。

午前:芋干し体験(姫、ほぼ職人)
午後:畝づくり講習(クロイ顧問、動揺中)

「では、鍬の持ち方はこのように……」
(アメリア)

「は……はぁ……」
(クロイ)

クロイ顧問は、鍬を構えていた。

その表情は険しく、まるで“外交交渉の文面”とでも対峙しているかのようだった。

「顧問!肩の力を抜いて、土と仲良くしてみてください!」
(ルーク)

「……“土と対話せよ”とは……難解な表現だ」

「いえ、案外直球ですわ」
(アメリア)

周囲ではシャルナ姫が村の子どもたちと一緒に畝を作っていた。

「ねえ姫様、これでいいの?」(ティナ)

「ええ、とっても上手ですわ。あなた、“未来の農政官”ですわ」

「すごいよ! 王女さまが土いじりしてる!」(ネル)

リリアが心配そうにクロイを見ていた。

「お嬢様、顧問が固まっております……」

「では、少し“手を添えて”差し上げましょうか」

アメリアがクロイの手にそっと触れ、鍬の角度を直す。

「……こう。土に聞くように、静かに差し込んで、呼吸に合わせて返す」

一鍬、振り下ろされた。

土がふわりと返った。

クロイ顧問、沈黙。

「……これは……想像以上に……“気持ちがいい”……」

「土は、“返ってくるもの”を、拒みません」

その後、クロイは誰よりも真剣に畝を耕していた。

シャルナ姫は、村人たちに“セスティア式のお茶の淹れ方”を教えていた。

「この温度が絶妙なんですの。次はカレジア式とブレンドで――」
「うまっ!!」(ガストン)
「芋が香る茶って初めてだ……!」(ルーク)

文化が、混ざりはじめていた。

視察3日目の夜。

村の一角、焚き火のそばにて。

アメリアとシャルナ姫は、肩を並べて腰かけていた。

「こうして夜風に吹かれるのも……まるで王都とは違いますわね」
(シャルナ)

「ええ。ここは“静けさ”が風と同居していますの」
(アメリア)

しばらく沈黙のあと、姫がぽつりと尋ねた。

「アメリア様……貴女は、ずっとここに居続けると、決めているのですか?」

アメリアは焚き火の揺れを見つめながら答えた。

「決めてはおりません。けれど、“ここで何かを育てている”という実感が、わたくしを留めておりますの」

「それは、恋? 仕事? 理想?」

「すべてですわ」

シャルナはほっと息を漏らした。

「わたくし、少しだけ羨ましいと思いましたの。“選べること”も、“育てられること”も」

「姫は、ご自分の未来を“与えられるもの”とお思いですか?」

「ええ。いつも、“役割”で先が埋まっていて……」

アメリアはそっとシャルナの手を取った。

「ならば、耕しましょう。姫ご自身の“畝”を」

「……畝、ですの?」

「はい。“誰かのために歩く”のではなく、“誰と耕すか”を考える場所を、ぜひ」

その目に、シャルナは確かな光を見る。

焚き火の向こう、クロイ顧問が静かに現れる。

「アメリア・ルヴァリエ殿」

「はい」

「私は……本日をもって、セスティア王宮に正式に“報告書の草案”を提出します」

「そこには“干し芋による外交”の一節を記しても?」

「……残念ながら、それは“脚注”になります」

「まあ!」

「ですが、“土は国家を越えて人を耕す”という一文は、報告の冒頭に据えます」

アメリアは静かにうなずいた。

「それが“距離を耕す外交”ですわ」

視察4日目――最終日。

村の朝は、静かだった。
だが、どこか名残惜しさの滲む空気が広場に流れていた。

アメリアは朝食の準備を終えたあと、シャルナ姫と並んで畑の端に立っていた。

「帰りたくなくなってきましたわ……」
(シャルナ)

「畑というのは不思議です。“帰る理由”を奪ってくる場所なのですわ」
(アメリア)

リリアとガストンは、村のお土産を詰めていた。

「こちら“干し芋入り詰め合わせ”と、“鍬のミニチュア”です」

ルークは最後の棒人間外交資料をまとめていた。

「“芋が架け橋”ってちゃんと書いたから!」

「その文脈が問題なのですわ!」(リリア)

クロイ顧問は、ゼクスの手を借りて“視察記念石板”の最後の文を刻んでいた。

【国を越えて届いたのは、政策ではなく、土の匂いだった】

昼下がり。

広場で“ささやかな送別式”が開かれた。

シャルナ姫が、村人たちに一礼する。

「わたくし、セスティアに帰ってから、ここでの暮らしを語り伝えます。いつか、“土を語れる王女”になれたなら、その始まりは、きっとこの村にありますわ」

アメリアは微笑み、鍬を姫に差し出した。

「これは、“あなた自身の畝”を見つけるためのものです」

「……必ず、耕しますわ」

クロイは、アメリアに封筒を手渡した。

「これは、報告書とは別に記した“個人所見”です。土に触れて初めて分かった。“耕すとは、未来を信じる動詞”なのだと」

「まあ、詩的ですわね。どなたの影響ですの?」

「おそらく、干し芋です」

リリア「芋が万能すぎて、そろそろ何かが間違ってる気がしますの……」

やがて、セスティアの馬車が出発の時を迎える。

村人たちは、手を振り、花を掲げ、干し芋を投げ(恒例)

アメリアは、丘の上で手を振った。

「さようなら。“国境の向こうの隣人たち”。また耕すときがあれば、きっと、どこかの土で」

視察団が帰って三日後。

アメリアは村の朝食卓で、干し芋を切り分けながら一通の封筒を開いていた。

それは、セスティア王国より届いた“姫からの手紙”だった。

『親愛なるアメリア様へ

帰路の馬車の中でも、干し芋の甘さが離れませんでした。

けれどそれよりも、あの村の空気、暮らしの柔らかさ、何より“誰かと耕す”という感覚が、いまも指先に残っております。

わたくし、城に戻ってから初めて“庭に鍬を入れたい”と願いました。

兄たちは驚いておりました。

ですが構いません。

わたくしは、わたくしの畝を探します。

この手紙を読む頃、セスティア宮廷では“農業と外交の接続可能性”を議題とした討論会が開かれているはずです。

アメリア様が蒔いた言葉の種、確かに芽吹いております。

──またいつか、土の上でお会いできますように。

敬具 シャルナ・ヴェレント』

アメリアは読み終えた手紙を胸に当て、静かに目を閉じた。

「耕したのは、畑だけではありませんのね……」

その日の昼、村の子どもたちが“シャルナお姉ちゃんのまね”と言って、小さな畝を作っていた。

「“お茶も畝も、温度がだいじですの”って言ってた!」(ネル)
「わたしも王女になって、鍬ふるいたい!」(ティナ)

ルークが絵本に描き加える。
【王女と干し芋と国境を耕す鍬】

リリア「本気で教育教材にされかねませんわね……」

アメリアは空を見上げた。

「耕すという行為が、“線を引く”ことではなく、“繋ぐ”ことに使われるなら──。きっと、未来はもっと、柔らかくなりますわ」
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