治療不可能な恋をした
その言葉は、理人の胸の奥に鋭く突き刺さった。
「そんなの、誰が決めたんだよ」
「…っ、だ、だって、そうとしか思えない…!」
梨乃は顔を背け、俯きながら震える声で続けた。
「私には……逢坂くんに好かれる理由なんて、何もないから……」
理人は真剣な眼差しで梨乃を見つめた。
「……じゃあ、どうしたら信じてくれるんだよ」
理人の声が、少しだけ熱を帯びる。
しかし梨乃は答えず、長い沈黙が続く。
やがて小さく息をつき、絞り出すように言った。
「……分からない。ごめん」
その言葉を残し、梨乃は逃げるようにベッドから起き上がった。震える手でタオルを掴み、肩を落としながら浴室へ向かう。足音は弱々しく、ドアが静かに閉まる。
理人はその背中に手を伸ばすこともできず、ただ拳を強く握りしめた。
胸の奥で、ぎり、と音を立てて軋んだ。
──なんで、届かないんだよ
あと少しの距離なのに、それが果てしなく遠い。
彼女の中にある“自分”を信じてもらえないことが、何より痛かった。