治療不可能な恋をした
「……え…?」
梨乃は一瞬、呼吸を止めたようだった。見開かれたままの目が、じっと理人を見つめ返してくる。
けれどそのまなざしに、喜びやときめきの色はなかった。まるで心が現実に追いついていないように、戸惑いと困惑とだけが色濃く映っていた。
「……冗談、でしょ?」
時間をかけて絞り出すように言った声は、かすれていた。理人は視線を逸らさず、眉ひとつ動かさずに返す。
「冗談で、こんなこと言うかよ」
理人の言葉が、静かに部屋の空気を満たしていく。
梨乃は息を詰めたまま、視線を彷徨わせる。まるで逃げ道を探すように、天井、毛布の端、自分の膝へと落ち着きなく動き、最後には、そっと目を潤ませた。
彼女の喉が小さく動く。ためらうように唇を開いては閉じ、そしてようやく、搾り出すように言った。
「……そんなはず、ない。……逢坂くんが、私なんかを好きになるはずがない」
「なんでだよ」
言葉を被せるように出た問いかけに、梨乃は答えなかった。ただ、ぎゅっと毛布を握る手が小刻みに揺れている。
「だって……私じゃ、逢坂くんには釣り合わないから」