治療不可能な恋をした
「うち、近いんだ。もう少しだけ飲まない?」
軽く、でもどこか真剣なような、そんな理人の声に頷いたのは、自分だった。
ほんの出来心、だった。
無事に国家試験を終え、卒業を迎え、打ち上げの夜の高揚感とお酒の勢いに流された。
どこか浮き足立った気分の中で、陽キャでいつも人に囲まれている“あの逢坂理人”が、まさかの自分に距離を詰めてきた。……その不意打ちに、心の隙間を突かれたような気がした。
好きだったわけじゃない。
理人みたいな人は、自分とは住む世界が違うとずっと思っていたから。
だから理人の部屋に上がった時も、正直かなり酔っていたこともあって、なんとも思わなかった。
でも、酔いが少しずつ醒め、ふいに触れられた指先に拒む理由を見失って──気がつけば、彼の体温に包まれていた。
翌朝、目を覚ました時にはすっかり理性も戻っていて。
眠る彼を残し、黙って、そっと部屋を出た。
以来、あれは完全になかったことにした。
その後も理人からなにか連絡が来ることもなかったし、わざわざ確認するような関係でもなかった。梨乃も自分から何かを求めるつもりもなかった。
たった一夜の気の迷い。
そう思って心に蓋をして、ここまで来た。