治療不可能な恋をした
理人とは、必要最低限しか話していない。申し送りやコンサルの相談など、本来なら直接やりとりすべき内容も、可能な限り他のスタッフに仲介を頼んでいた。
「仁科先生、今日の小児心臓の件、心外の先生に報告を……」
「すみません、伝えてもらっていいですか? ちょっと今、どうしても手が離せなくて」
静かに、自然に、けれど確実に。自分でも驚くほど器用に、彼を避けている。
あれから何を言われたわけではない。理人はいつも通り、必要なことだけをきちんと話してくる。
それがむしろ、胸を締めつけた。
あんなふうに想いを向けてくれたのに、何事もなかったように接してくる彼の冷静さが、痛かった。
……いや、本当は冷静なんかじゃない。彼のまなざしの奥にある“期待”や“問いかけ”に、気づかないふりをしているだけだった。
彼の何かを伝えようとする空気を拒絶しているのは、自分のほうだ。
──どうして、信じられないんだろう。
あのとき言ってくれた言葉が嘘じゃなかったのは分かってる。
でも、怖かった。彼の隣に立つ自分を想像して、何度も足がすくんだ。
「仁科先生、大丈夫? さっきから何度も書類ひっくり返してますよ」
白石の声に、また我に返る。
「えっ……あ……」
冷静なつもりでいても、指先は思うように動いてくれない。心ここにあらずな自分が、嫌というほど浮き彫りになる。
それでも、どうすればいいかなんて分からない。正直な気持ちを見せたら、もう元には戻れない気がして。
そして何より──あんなに眩しい人に好かれているかもしれない自分が、どうしても信じられない。