治療不可能な恋をした

「……たった一日だけなんて、マジで全然時間足りないから」

「……っ」

梨乃の胸が、きゅっと音を立てるように締めつけられる。彼の声の真剣さが、まっすぐに胸に届いた。

「今日、このまま……うち来てくれない?」

頬が触れそうな距離で、理人がそっと覗き込む。軽い言い方なのに、その目はまるで違った。ただ“今夜も一緒にいたい”と願う人の瞳だった。

「まだ一緒にいたい。……だめ?」

夏の夜の空気が、ふたりのあいだを静かに流れていく。

梨乃は言葉の代わりに、ゆっくりと理人のシャツの裾をつまんだ。

「……も」

「え?」

「私、も……」

小さな声は、夜にそっと溶けた。それでも理人は確かに聞き取ったらしく、ふわりと優しい笑みを浮かべる。

抱き寄せていた腕を緩め、今度は自然に梨乃の手を取り指を絡めた。その手はさっきよりも少しだけ強く、それでいて優しい力だった。


駅へ向かうはずだった足は、気づけば別の道を歩いていた。

静かな夜道に、遠くの信号が淡く影を伸ばす。足音と重なった呼吸だけが、涼やかな空気に混ざっていく。

言葉はなかった。だけど指先から伝わる熱と肩越しに感じる体温が、この先の時間をすべて物語っている。

激しく波打つ鼓動だけが、これからの時間を急かすように早まっていた。
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