治療不可能な恋をした

(恥ずかしくても、言わなきゃ。逢坂くんはこんなに、気持ちをたくさん伝えてくれてるんだから)

胸の奥で、言葉が形になるのを待つように息を整える。

「私にとっていちばん特別で……唯一、好きになった人だよ」

夜風に紛れて消えてしまいそうなほど小さな声。それでも理人の耳には届いたらしく、彼はゆっくりと立ち止まった。

「……今の、もう一回言ってもらっていい?」

真っ直ぐ向けられた瞳が、暗がりの中で驚くほど近く感じられる。鼓動がうるさくて、思わず顔をそむけた。

「やだ。もう言わない」

もう限界だった。羞恥で顔を隠したくなり、胸の奥で鼓動が暴れる。どうしていいかも、どんな顔をすればいいのかもわからない。

その瞬間、理人の気配がすっと近づいた。

「……やっぱ、無理」

そう呟いた理人の腕が、次の瞬間、梨乃の肩をそっと抱き寄せた。

「えっ……ちょ、ちょっと!ここ人通り──」

慌てて胸を押そうとしたが、その手もやさしく包み込まれ、逃げ道を失った。

「だって無理だろ。そんな可愛いこと言われて、平気でいられるわけないじゃん」

耳元で聞こえる声は、どこか切実で、熱を帯びていた。
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