治療不可能な恋をした
言葉は少なかったが、その短いやり取りだけで互いの安心感がゆっくりと胸に広がるのを感じた。
視線を交わすだけでも自然に心が落ち着き、彼女がそばにいる時間の尊さを、静かに噛みしめる。
「このまま一緒にいていい?急いで食うから」
「あ……うん。というか、私もお昼まだ食べてなくて」
「え?佐倉さんと食べてたんじゃねえの?」
「ううん。……だって…」
小さな声で、梨乃は少し照れながら続けた。
「せっかく理人が来てくれるなら、待ってたくて……」
不意打ちの名前呼びに、胸の奥がドッと音を立てる。病院では徹底して名字呼びを貫いていたはずなのに、思わず笑みがこぼれ、咄嗟に口元を手で押さえた。
(くそ、ここが職場でさえなければ…!)
周りにはまだ人の気配がある。力いっぱいに抱きしめたい衝動を必死に抑え、手の温もりにそっと触れるだけで心を落ち着けた。
それでも胸の高鳴りは止まらず、理人の心は自然と弾むように躍っていた。
「……はあ……マジで午後なんて来なきゃいいのに。このままずっと、梨乃に触っててえ」
指でなぞるように手の甲に触れると、梨乃は耳まで赤く染め、慌てて小声でたしなめた。
「も、もう!ばか言わないで!」
その必死な表情が可愛くて、理人は思わず笑みを漏らす。梨乃は恥ずかしさに俯きながらも、どこか嬉しそうに口元を緩めた。
午後の業務が始まる前、食堂の小さな空間で、二人だけの穏やかで甘い時間が流れていた。