治療不可能な恋をした

頬に熱を感じながら席に着くと、店員が微笑みながらメニュー表を差し出す。軽い相談をしながらメニューを選び、梨乃はパスタ、理人はステーキのセットを選んだ。

店員が下がり、グラスの水を口に含む。ふっと軽く息を吐くと、テーブルに肘をつきながら理人が声をかけてきた。

「さっき医長に呼ばれたって言ってたけど、そっちはまだ落ち着かない感じ?」

「ああ、うん。そうだね……」

夏場は夏風邪や感染症、熱中症や皮膚トラブルなどで来院が増え、小児科は多忙だ。

けれど、今日医長に呼ばれたのはそれとは別件で、梨乃はゆるやかに首を振った。

「忙しいのは変わらないよ。でも話はそれとは別で、今度うちの科に実習生が来るから、後輩の指導を頼まれたの」

梨乃は水の入ったグラスを指先で軽く回しながら、何気なく答えた。

「あー、なるほど。それは大変そうだな」

「うん、まあ……。でも実習に来るのが私達の大学の学生だから、『せっかくだから』って医長が……」

梨乃が苦笑いで肩をすくめると、理人は柔らかく目を細めた。

「そうか。梨乃が指導してくれるなんて、その学生が羨ましいな」

「え!?そ、そんなこと……」

「でも、無理だけはしないようにな。梨乃はちょっと真面目過ぎるところあるから、背負い込みもしすぎないように」

理人のやさしい声音に、 恥ずかしさで俯きかけていた視線が、いつの間にかやわらかな笑みに変わっていた。

「うん。ありがとう、気をつけるね」

そう返した梨乃を見て、理人は一拍おきにふっと口角を上げた。
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