治療不可能な恋をした
「それにしても実習か。懐かしいな。俺たちの時はさ、毎日ヘトヘトになってなかった?」
理人の言葉に当時を思い出し、梨乃も思わず笑いがこぼれる。
「たしかに。毎日症例まとめたり、患者さんの経過をノートに書き写したりで、夜はぐったり……。でも、いろんな先生に声をかけてもらったの、今でも覚えてる」
「だな。大変だったけど、今となってはいい思い出だよ」
「私もそう思う」
梨乃が懐かしそうに返したところで、テーブルの横にそっと影が差した。
「お待たせしました」
店員から声がかかり、タイミングよく料理が運ばれてきた。白い皿に盛られたパスタからはにんにくとオリーブの香りが立ちのぼり、湯気と一緒に食欲を刺激する匂いが広がった。
そして理人の前には、香ばしく焼かれたステーキと彩りの良い付け合わせが並べられる。
「わあ、美味しそう……」
梨乃は思わず目を細め、軽く手を合わせて息をついた。理人も満足げに頷き、ナイフとフォークを手にする。
「じゃ、食べようか」
「うん、いただきます」
二人は顔を見合わせ微笑み、ゆっくりと料理に手を伸ばす。皿から立つ温かな香りが、会話をひとまず和らげ、心地よい沈黙をもたらした。
しばらく食事を口に運んでいると、理人がふと声をかけてきた。
「なあ、梨乃」
「ん?なに?」