治療不可能な恋をした
そのままどちらともなく顔を近づかせ、唇を重ねた。
短く、軽やかなキスを交わすたびに、理人の温もりがじんわりと心に染み渡る。手をつなぎ、体を寄せているだけで、思考がしびれるように溶けていく。
家事がまだ終わっていないことも、頭の片隅にあるはずの仕事も、今はどうでもよく思えた。
(……以前の私なら、絶対になかった)
こんなふうに仕事を後回しにしてまで、好きな人と過ごすことを優先するなんて、考えられなかった。
胸の奥で、知らず知らずのうちに芽生えた想いを、梨乃はそっと言葉にする。
──気づかないうちに、私は、この人にかけられてしまっていた。
治らない、恋という病に。
そしてそれは、きっと一生、治療不可能なまま。
触れ合っていた唇がそっと離れる。理人の顔が目の前にあるだけで胸が熱くなり、梨乃は愛おしさに満ちた眼差しを向けた。
その視線を受けて、理人が小さく首をかしげる。
「どうした、梨乃」
「……ううん。なんでもない」
梨乃は微笑みながら、そっと彼の体に寄りかかる。ただそれだけで、心は満たされていった。
静かな夜のリビングに、ふたりの鼓動と呼吸だけが溶けていく。
そのささやかな響きが、二人だけの確かな未来を優しく照らし出しているようだった。
fin...


