治療不可能な恋をした
その間に理人は私室からスーツケースを持ち出して戻り、梨乃の荷物の隣で手際よく準備を進めていく。衣類や書類を詰め込みながら、彼は少し浮かれた声でつぶやいた。
「それにしても、今回は久しぶりの遠出だな」
梨乃はお盆をテーブルに置き、食器を並べながら理人の方へ視線を向ける。軽く苦笑し、少し釘を刺すように言った。
「遊びじゃないんだよ?仕事なんだから」
理人はわずかに顔を上げ、いたずらっぽく笑みを浮かべる。
「仕方ないだろ。梨乃と出かけるってだけでデートに思えちまうんだから」
理人はあっさりと、けれど楽しそうに言い放つ。
当たり前のように口にするその言葉に、梨乃は思わず頬を赤らめる。それでも口元に小さな笑みを浮かべながら、「ほんとにもう……」と呆れたふりをし、自然に理人の隣に寄り添った。
肩が軽く触れ合う距離の中で、互いに呼吸を感じ、同じ空気を共有するだけで、心がふっと和らぐ。
理人の柔らかな視線と微かな笑みに、胸の奥が満たされるような感覚が広がる。言葉にせずとも伝わる温もりと安心感で、幸せが静かに満ちていくようだった。