治療不可能な恋をした

あっけらかんとした声がリビングの奥から響いた。思わず足を止める。本来いるはずのないその人の姿に、心のざわめきが少しだけ現実に引き戻された。

「……お姉ちゃん?」

リビングには、姉の愛梨(あいり)の姿があった。ゆったりとソファに腰掛け、スマホを手ににこにこと笑っている。

「急に実家に帰ってくるなんてどうしたの?いつ来たの?」

「着いたのはさっきよ。旦那が急に出張になってね、せっかくだから(そら)と一緒にこっち泊まっちゃおうかなって思い立って、そのまま来ちゃった」

「……また急だね……」

そう言いながらも、梨乃はキッチンの冷蔵庫へ足を伸ばした。

「それで、宙は?お母さん達もいないみたいだけど」

「宙はお母さんと買い物。お父さんは病院」

「そうなんだ……」

冷蔵庫からペットボトル飲料を取り出しながら、梨乃はソファに向かった。

ついこのあいだまで小さかった甥っ子はいつの間にか小学5年生にまで成長し、今でも時折こうして姉と実家に顔を見せに来てくれる。

父の病院というのも、経営している地域密着型の個人クリニックだ。今日は休診日のはずだが、時折こうして溜まった事務作業を片づけに休みの日も赴いている。

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