傲慢王子の放浪譚〜調子に乗りまくって王位継承権を失いかけている崖っぷち王子の成長物語〜
身分を隠し、
「オルテンシア男爵フィル」として旅を続けていたフィリップ。

ウィステリアに到着した時、
街はまさに建国記念祭に向けての準備で大賑わいだった。その熱気に誘われ、
一般市民も参加できる広場の仮面舞踏会に
足を踏み入れることに。

灯籠の明かりが揺れる中、
人々が自由に踊り、笑い、語り合う――
そこでは、貴族も平民も関係ない。
誰も彼もがただの一市民として
ウィステリアの建国を祝う祝祭。
このマスカレードでは毎年様々な恋模様が生まれ、
かつてジゼル王妃とユリウス国王も
お互いの愛を確かめあったという。

そんな熱気をよそに、
フィリップはグラスを傾ける。
すると突然、
「せっかくのお祭りなのに、浮かない顔ね。まさか失恋中とか?」
一人の女性に声をかけられた。
栗色の髪に、緋色の仮面をつけた女性。
「ははは、そんな風に見えたかい?俺は外国人で、この祭りに参加するのは初めてなんだ。勝手が分からなくてさ。ところで君の名は?」
「新参者っていうのは本当なのね。このマスカレードでの大事なルールを教えてあげる。名前は聞いちゃいけないのよ。仮面の下の素顔は秘密なの。」
彼女はイタズラっぽく笑った。

「まぁ、でも特別に教えてあげる。私はミレーヌよ。」
「フィルだ。よろしく。」

ふたりは偶然、
近くのテーブルで政治談義を耳にして会話を交わす。
気づけば夢中で、国政・教育・貧富の格差
――様々なテーマで語り合っていた。

「国は血筋で動かすものじゃないわ。才能を認め、努力する者が報われる国こそ、本当の強国よ。」
「……その言葉、胸に響くな。私もそんな国を、いつか……見てみたい。」

お互いに正体を知らぬまま、心を通わせていく。
別れ際、彼女は微笑んで言った。
「明日も来る? きっと、また面白い人に会えるわ。」
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