勇者に婚約破棄された魔女は、魔王に婚約を申し込みに行きました。 ~かつて最恐と呼ばれた魔女の封印は、無知な勇者が解きました~
 光が消えた時、ライアンは、自分が取り返しのつかない過ちを犯したことを知った。

 勇者の婚約者で、魔力が皆無とまで言われたひ弱な女性は、もうそこにはいなかった。
 禍々しいまでの魔力を放つ、【最恐の魔女】。

 彼女の深紅の瞳は、冷たく、そして美しく輝いていた。

「な、なん…だ、この、魔力は、!?」

 ライアンの声が震える。その声は、恐怖に染まっていた。クレアは部屋のすみで、泣きながら蹲っている。

 そんな2人を一瞥すると、ジアンナは婚約破棄を証明する書類にサインをした。すでにライアンの分の記入は済んでおり、ジアンナが記入したことで書類は完成した。

 ジアンナは腰を抜かしているライアンに近づいて書類を渡すと、それはそれは綺麗な笑顔で彼を見下ろした。

「封印を解いてくださってありがとうございます、無知な勇者サマ」
「お、まえ、」
「あそこで蹲って泣いている魔導士が、かつて【最恐】と呼ばれた魔女である私よりも、強いようには見えませんが、あなたが望むのでしたら仕方ありませんね」

 ジアンナは部屋の中心まで戻ると、魔法陣を床に描き、優雅な動作でその中央に立つ。魔方陣が輝き、発動する直前、思い出したようにジアンナは顔を上げた。

「ああ、そうだ。国王からお叱りがあると思いますが、頑張って耐えてくださいね。では、」
「ま、まて、」
「ごきげんよう」

 無情にも去っていったジアンナ。ライアンは、ただ茫然と魔方陣が消えるのを見送るしかなかった。

 彼の足元には、ジアンナが残した婚約破棄の書類と、彼女が身につけていた5つの装飾品だけが残されていた。ライアンは、自分がとんでもない過ちを犯したことを悟り、その場で叫ぶしかなかった。
< 4 / 21 >

この作品をシェア

pagetop