借金令嬢は異世界でカフェを開きます
 客の要望を受けてカフェで販売を始めたナプキンやランチョンマットも、今ではソリスの特産品として王都内で、それから徐々に他領に受け入れ始めていると、弟のリチャードから嬉しい便りも届いた。


 それでも初めは、令嬢と同じ名前ということにしているグレースに向かって皮肉気に名前を呼ぶ客もいた。
 本物の令嬢だとは夢にも思ってないだろうが、なぜか完全に見下し、道化の役割を給仕をするグレースに求めたのだ。
 世間の給仕同様、尻や胸を触ろうとする客をかわすのはお手の物だが、そんな扱いを受けて傷つかないわけではない。
 それでも毎日笑顔で働いていたある日、グレースにとっての救世主が現れた。


「レディ・グレース」
 常連客のオズワルドが、冷やかしではない口調でそう呼びはじめたのだ。

 オズワルドは近所で働いているらしい男性だ。ぼさぼさの濃い茶色の髪にうっすら色のついたやぼったい眼鏡をかけた姿は、彼を相当老けさせて見せている(モリーは彼を四十代以上だと思ってたらしい)。でも普段の会話や肌の艶を見れば、彼がまだ三十になるかどうかの年らしいことが分かった。

 お昼や残業後に立ち寄ってくれていた彼がグレースを呼ぶと、まるで本物の貴婦人を呼ぶような敬いを感じられた。
 グレースは尊敬すべき丁寧に扱うべき女性なのだと、彼はごく普通の態度で表してくれ、徐々にそれは他の客にも広がっていったのだ。

 開店から三年たった今では以前のような少し荒れた空気は皆無で、客たちも温かい雰囲気を作ることに協力している、そんな店になった。
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