借金令嬢は異世界でカフェを開きます
 六日後。

 普段なら休業日であるカフェの外に屋台が設置された。開店前に仮営業で使っていたものだ。黒板状のA型ボードにはチョークでクレープの絵が描かれている。

「やっぱりモリーは絵が上手だわ。三色しか色を使ってないのに、どうしてこんなに色彩豊かに描けるのかしら。天才ね!」

 絵が全くと言っていいほど描けないグレースが手放しに絶賛すると、モリーは顔を真っ赤にしながら照れた。彼女が小さく首を振ると、おさげにしている赤毛がしっぽのように左右に揺れる。その様子が小型の犬のようで、その可愛らしさにグレースは心の中でこっそり身もだえた。

(可愛い! 本当に可愛い! 照れてるモリーの可愛さはサイコーね)

 心の中で何度も可愛いを繰り返すグレースの前で、モリーは頬の熱を冷ますかのようにパタパタと手を振った。

「もう、店長ってば誉めすぎですぅ。クレープがとってもおいしかったから、できるだけそれが伝わるようにって描いただけですよ」

 店長とはグレースのことだ。外ではグレースのことを、「お嬢さま」や「グレース様」と呼ぶことを禁じているためだ。でも一般的な「おかみさん」や「亭主」ではグレースに似合わない。モリーが散々考えた結果、この呼び方ににおちついた。
 グレースとしては、まるで大きなお店の店主のようだと思ったけれど、ほかにピンとくるものがないということで了承したものだった。

 ***

 クレープを作ろうと思い立った次の日。
 昼と夜の間の仕込み時間を使って、モリーとオズワルド、それからピアツェとマロンにクレープの試食をしてもらった。
 生地の材料は簡単なものだ。
 薄力粉と牛乳と卵、それに砂糖が入る。

 美古都の一番上の姉が得意だったレシピを必死に思い出し、数回試した。存外早く思い描いていたものに近いものができたので、それにホイップした代替クリームを包み、ティユという葉でくるりと巻く。
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