友情結婚って決めたのに 隠れ御曹司と本気の恋をした結果
「蛍くん……」

 編集者として蛍くんとずっと一緒にいる時間が長かったからか。
 彼がいなくなってすぐのころは、何度も名前を呼んでしまった。
 その度に「なんですか」と聞き慣れた声が聞こえてこないことに疑問を感じ、目の前の椅子に部下が座っていなかったんだと気づかされた。
 何度も喪失感に苛まれ、おかしくなりそうだ。

 ――蛍くんがいなくなってから、明らかに仕事の作業効率が落ちた。

 そんな状況でも、締切は待ってくれない。
 2人分の仕事をこなさなくてはならず、家に帰る暇もなく出版社に泊まり込む。

「うぅ……っ。終わらない……!」

 時には歯を食いしばり、泣きながらキーボードを叩いた日もあった。
 約束通りどうにか1週間一度、数時間だけ睡眠を取るため家に帰っても、彼の姿はない。

 ――蛍くんだって1日でも早く社長を継ぐために、蛍火グループで寝る間も惜しんで働いているんだもん。
 仕方ないよね。

 疲れがピークに達しているからか。
 そうして勝手に自己完結して、メッセージアプリで連絡を取ることすらせずに泥のように眠る。
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