百合と霹靂(マンガシナリオ)
#3 トマトバトル
◯「好きなものは一花」というカヲルの爆弾発言に沸く一花の教室。
◯一花の周囲の生徒たちがお祭りのように一花を囃す。
◯そんな中、カヲルが続きの言葉を紡ぐ。
カヲル「…の、育てたユリ。」
◯コントのようにガクツと肩を落とす生徒たち。
生徒一同「なーんだ…ユリか!」
◯一花が耳まで真っ赤になり、頬に手を当てる。
一花「ごっ、誤解を与えるような区切りかたをすなっ!」
◯カヲルが一花の机に近づく。
◯「ど、どーぞ。」カヲルのオーラに気圧された隣の席の男子が荷物を持って席を譲る。
一花「短期留学までしてユリが欲しいなんて、信じられない!」
◯着席したカヲルが一花のつぶやきに反応する。
カヲル「世の中には信じても良いものが二つあるんだよ。」
一花「え?」
カヲル「花と俺。」
◯芸人のリアクションのように机に突っ伏す一花。
一花「…聞かなきゃ良かった!」
カヲル「もちろん今日から園芸部に入るから、ご指導のほどよろしく。」
一花「フワッ⁉ 華道部じゃないの⁉」
カヲル「華道部には今まで通り講師とし週一で顏を出す。
だけど俺は、一花のユリのような完璧な花を育ててみたいんだ。」
一花「なるほどね。そっちに方向転換したんだ。」
カヲル「だって、一花のユリを売ってはくれないんだろう?」
一花「う…もちろん。」
カヲル「じゃあ、弟子入りするしかないじゃないか。頼むよ師匠。」
◯カヲルの腕の細さをチラリと見てから一花はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
一花(どうせすぐに音を上げるに決まってる!)
一花「ま、良いんじゃない。」
一花(園芸は体力仕事!
モヤシ御曹司がすぐに順応できるほど、田舎の園芸部は甘くないんだから!)
◯カヲルがペロリと唇を舐め、小さくつぶやく。
カヲル「言質取ったぞ。」
♢
◯園芸デザイン科の授業風景。
◯座学・農業・畜産・園芸の実習をカヲルは次々と華麗にこなしていく。
◯土を一輪車で運ぶ力仕事にも音を上げず、何をやらせても完璧なカヲル。
女生徒「ヤバい! カッコよ!!」
男子生徒「マジ惚れそう!」
◯それを見て歯噛みして悔しがる一花。
一花(こんなはずじゃなかったのに!)
♢
◯校舎横の広いグラウンド。
◯大型ドローン操作の授業を受けている一花のクラス。(半袖シャツ・ジャージのズボンにヘルメット姿。)
◯小さな穴をすり抜けるカヲルの見事なドローン操作に、一花以外のクラス全員が拍手喝采。
◯一花は操作が上手くできずに早々にリタイアしている。
◯膝を抱えて一人で地面に座り、ポツリとボヤく。
一花「知らなかったわ。
この世界ってアイツが主人公だったの?」
女子「ヤバ! コントロールが効かないッ!」
一花「え!?」
◯悲痛な叫びとともにクラスの女子が操作しているドローンが一花の頭目がけて突っ込んでくる。
一花「オワタ…。」
◯カヲルが一花をドローンがぶつかる寸前で抱きしめる。
◯カヲルの背中に激しくぶつかる大型ドローン。
一花「カヲル!」
カヲル「大丈夫。」
一花「じゃないよね!
服脱いで傷を見せて!!」
◯カヲルの半袖シャツを脱がせて半裸にした背中を見て、驚く一花。
◯一見細く見えるカヲルの上半身は鍛えられていて、筋肉の鎧のようにカチコチ。怪我も擦り傷程度。
一花「モヤシじゃなくて、細マッチョ…!」
カヲル「一花に怪我がなくて良かった。」
◯キュンとする一花の口が緩み、思わずニヤけてポワンとしまう。
カヲル「どうしたの?」
一花「な、なんでもない!」
◯慌てて口元を引き締める一花。
一花(バレてないよね。あたしが筋肉フェチだって!)
♢
◯放課後の園芸部。
◯カヲルを伴って現れた一花に驚く、園芸部員たちと草汰。
◯草汰がカヲルの前に立ちはだかる。
草汰「真行寺…! まだ一花のユリを狙って⁉」
カヲル「悪いか?」
◯草汰とカヲルの間に一花が入る。
一花「入部希望なの。
今日、あたしのクラスに短期留学してきたんだ。」
草汰「マンガか! 急展開だな。」
◯カヲルが草汰を牽制するように前に出る。
カヲル「俺は、一花に習って完璧なユリを育てたいんだ。」
草汰「ユリをねぇ…。」
◯草汰の目がギラリと光るが、すぐに温和な表情に戻る。
草汰「素人に最初から球根系はハードルが高いよ。まずは育てやすい一年草から始めたら?」
カヲル「嫌だ。」
◯草汰の温和な表情が崩れる。
草汰「ナメないでほしい。
園芸はそんなに生易しいものじゃない。」
カヲル「そっちこそ俺の伸びしろをナメるな。
俺の才能と手腕で、高いハードルなんて蹴り飛ばしてやる。」
◯草汰とカヲルがバチバチに睨み合いをする。
草汰「…単に一花と一緒に活動したいだけなんじゃないのか?」
カヲル「だとしたら?」
草汰「ブッ潰す。」
◯バチバチに火花を散らす草汰とカヲル。
◯さすがの一花もオロオロとするしかない。
園芸部員A「あの温厚な部長がバトってるぞ!」
園芸部員B「しかもあの、柴犬を巡ってだと?」
◯園芸部員AとBが入道雲が立ち上る真夏の空を見上げる。
園芸部員A「これから雪が降るな!」
♢
◯トマトのハウスの前に園芸部が集結する。
◯草汰が高らかに宣言する。
草汰「勝負はトマトバトルだーッ!」
カヲル「思ってたより、地味な戦いだな。」
◯興ざめした顔のカヲル。
◯草汰はニヤリと余裕の笑み。
草汰「地味ってゆーな!
ただし、青すぎたり虫食いや日焼けなんかの製品にならないトマトはノーカンだからな!」
◯一花が慌てて口を挟む。
一花「ズルいよ。見分ける目がある分、家が農家の草汰ニィの方に分があるじゃん。」
草汰「なら、真行寺はユリを諦めてくれ。」
カヲル「俺に諦めるなんて言葉はない!」
◯冷静に見えたカヲルのこめかみに、太い青筋が浮かぶ。
草汰「じゃあ早速始めようか。時間制限は20分。で、より多くトマトを収穫できた方が勝ち。」
カヲル「いいだろう。」
一花「負けず嫌いなんだから…。」
◯園芸部員Aが、トマトのハウス前に移動してスタートの準備をする。
園芸部員A「用意はいいか?」
◯おもむろに持っていたフラッグを振り下ろす。
園芸部員A「よーい、スタート‼]
◯草汰が爆ダッシュで空のカゴを乗せた台車をハウスに運ぶ。
◯もたつくカヲルに、台車の動かし方を教える一花。
一花「気が乗らないけど、助太刀するわ。」
カヲル「いいのか?」
一花「だってフェアじゃないもん。ただし、隣で囁くだけ。取るのはカヲルよ。」
カヲル「ありがとう。」
◯素直に礼を言うカヲルに一花が胸キュン。
一花(…悪いヤツではないのよね。)
♢
◯トマトハウスで収穫の様子。
◯草汰が大量リード。
◯カヲル・一花チームは苦戦。
園芸部員A「タイムアーップ!」
◯トマトのハウスの前に大量のトマトが入るカゴを台車に乗せた草汰が立っている。
◯カヲルの前にあるカゴはトマトが少ない。
◯カヲルのカゴを見て確信に満ちた笑みを浮かべる草汰。
草汰「勝負あったな。」
一花「草ニィ…まだよ。」
◯一花が後ろに隠していたカゴを台車の上に重ねる。
草汰「なにィ⁉」
一花「しかも、さっき草ニィが製品にならないトマトはノーカンだって言ってたよね?」
草汰「ああ…。」
一花「じゃあ、そこの熟れすぎトマトもダメじゃない?」
草汰「ウッ!」
一花「ズルは無しだよ。」
◯一花が気まずい顏の草汰のカゴから赤すぎるトマトを抜く。
一花「いち、に、さん、よん…ハイ、引き分け!」
◯逆ギレした草汰が一花の背中に向かって叫ぶ。
草汰「一花、お前どっちの味方なんだよ⁉」
◯草汰に背中を向けたまま喋る一花。
一花「カヲルは一生懸命だった。」
◯トマトを夢中で取るカヲルの、玉のように流れ汗汗姿を思い浮かべる一花。
一花「ユリに対する情熱だけなら、あたしはカヲルを認めたい。」
草汰「わかった。真行寺の入部を…認める!!」
◯シリアスに俯いた草汰が、顏を上げた瞬間にパアッと明るい笑顔になる。
草汰「みんなお待たせ!
これより新入部員歓迎のトマトパーティーをやろうぜ!」
◯「ウォオ」と叫び、テンション高く盛り上がる園芸部員たち。
◯キョトンとするカヲルをよそに、みんなでバーベキューの用意を始める。
◯一花がカヲルにキャンプ用の折り畳み椅子を手渡す。
一花「アハハ。草ニィの変わりように驚いたでしょ。」
ウチの部の伝統で、新入部員とトマトバトルした後はバーベキューして交流を深めるの。」
カヲル「バトルは茶番だったのか?」
一花「ううん。あれは本気モード。遊びも活動も手を抜かないのが私たちのモットーなんだ。」
◯一花が笑いながら熟たトマトをジャージの袖で拭いてカヲルに手渡す。
一花「草ニィのトマト、ガブッといっちゃって。めちゃくちゃ甘いからビックリするよ。」
◯言われた通りにかぶりつくカヲル。
カヲル「甘い!」
◯顏がほころぶカヲルを見て、嬉しそうな園芸部員たち。
カヲル「トマトの茎も細いが生命力を感じる枝付きで、濃い緑の見た目も、黄色い可憐な花も美しい。
トマトにも可能性を感じる。生けたら面白そうだ。」
◯用意された炭火の焼き台で串に刺したトマトをあぶろうとしていた一花が噴き出す。
一花「カヲルって、四六時中生け花のこと考えてるの?
ヲタクの鏡だね。」
◯すかさず園芸部員がツッコミを入れる。
園芸部員B「轟だってユリのことばっかりだろ!」
一花「それはまぁ、そうか。」
園芸部員A「鏡じゃないぞ。轟は柴犬だからな!」
カヲル「柴犬?」
一花「余計なことをゆーな!」
◯毒を吐く園芸部員にエルボーをかます一花。
◯それを見て笑い転げる園芸部員たち。
◯和やかな雰囲気の中、草汰が一花とカヲルを見つめる。
草汰(この二人、なんだか似てるんだよね…。)
♢
◯次の日から一花と一緒にハウスでユリの手入れをするカヲル。
(一花はジャージにビニール手袋にキャップ。カヲルはプラス、大きめの麦わら帽子。)
◯汗を流してユリの根元の雑草を取っていたカヲルが、ふと気づく。
カヲル「ここでは藁を敷くんだな。」
カヲル「一花の家のハウスでは見なかったが、なぜなんだ?」
一花「これはパパのマネなの。」
◯一花が寂しそうに切り出す。
一花「でも、再婚してからのママはパパがやって来たことを全否定して、新しいことばっかりやろうとするんだ。」
◯次第に声が震える一花。
◯人知れず抑えていた気持ちが、なぜかカヲルには素直に話せる。
一花「だから、あたしは家のユリは手伝わないことにしたの。」
カヲル「…。」
◯ジッと黙ってきいているカヲル。
◯一花が話を切り上げるために笑って誤魔化そうとする。
一花「ゴメンゴメン! アンタには関係ない話なのに。」
◯鼻を赤くしてすすり上げながら、一花が強がる。
カヲル「勉強になった。」
◯カヲルが一花にポケットティッシュを差し出す。
◯遠慮なく鼻をかむ一花。
カヲル「でも一つ言いたい。
このユリを親だけではなくもっと世間に認めさせて、輝かせる方法がある。」
一花「え、どうやって?」
◯一花がティッシュで鼻を抑えながら聞く。
カヲル「一花が華道部に入り、コンクールで優勝することだ。」
◯一花の周囲の生徒たちがお祭りのように一花を囃す。
◯そんな中、カヲルが続きの言葉を紡ぐ。
カヲル「…の、育てたユリ。」
◯コントのようにガクツと肩を落とす生徒たち。
生徒一同「なーんだ…ユリか!」
◯一花が耳まで真っ赤になり、頬に手を当てる。
一花「ごっ、誤解を与えるような区切りかたをすなっ!」
◯カヲルが一花の机に近づく。
◯「ど、どーぞ。」カヲルのオーラに気圧された隣の席の男子が荷物を持って席を譲る。
一花「短期留学までしてユリが欲しいなんて、信じられない!」
◯着席したカヲルが一花のつぶやきに反応する。
カヲル「世の中には信じても良いものが二つあるんだよ。」
一花「え?」
カヲル「花と俺。」
◯芸人のリアクションのように机に突っ伏す一花。
一花「…聞かなきゃ良かった!」
カヲル「もちろん今日から園芸部に入るから、ご指導のほどよろしく。」
一花「フワッ⁉ 華道部じゃないの⁉」
カヲル「華道部には今まで通り講師とし週一で顏を出す。
だけど俺は、一花のユリのような完璧な花を育ててみたいんだ。」
一花「なるほどね。そっちに方向転換したんだ。」
カヲル「だって、一花のユリを売ってはくれないんだろう?」
一花「う…もちろん。」
カヲル「じゃあ、弟子入りするしかないじゃないか。頼むよ師匠。」
◯カヲルの腕の細さをチラリと見てから一花はフンと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
一花(どうせすぐに音を上げるに決まってる!)
一花「ま、良いんじゃない。」
一花(園芸は体力仕事!
モヤシ御曹司がすぐに順応できるほど、田舎の園芸部は甘くないんだから!)
◯カヲルがペロリと唇を舐め、小さくつぶやく。
カヲル「言質取ったぞ。」
♢
◯園芸デザイン科の授業風景。
◯座学・農業・畜産・園芸の実習をカヲルは次々と華麗にこなしていく。
◯土を一輪車で運ぶ力仕事にも音を上げず、何をやらせても完璧なカヲル。
女生徒「ヤバい! カッコよ!!」
男子生徒「マジ惚れそう!」
◯それを見て歯噛みして悔しがる一花。
一花(こんなはずじゃなかったのに!)
♢
◯校舎横の広いグラウンド。
◯大型ドローン操作の授業を受けている一花のクラス。(半袖シャツ・ジャージのズボンにヘルメット姿。)
◯小さな穴をすり抜けるカヲルの見事なドローン操作に、一花以外のクラス全員が拍手喝采。
◯一花は操作が上手くできずに早々にリタイアしている。
◯膝を抱えて一人で地面に座り、ポツリとボヤく。
一花「知らなかったわ。
この世界ってアイツが主人公だったの?」
女子「ヤバ! コントロールが効かないッ!」
一花「え!?」
◯悲痛な叫びとともにクラスの女子が操作しているドローンが一花の頭目がけて突っ込んでくる。
一花「オワタ…。」
◯カヲルが一花をドローンがぶつかる寸前で抱きしめる。
◯カヲルの背中に激しくぶつかる大型ドローン。
一花「カヲル!」
カヲル「大丈夫。」
一花「じゃないよね!
服脱いで傷を見せて!!」
◯カヲルの半袖シャツを脱がせて半裸にした背中を見て、驚く一花。
◯一見細く見えるカヲルの上半身は鍛えられていて、筋肉の鎧のようにカチコチ。怪我も擦り傷程度。
一花「モヤシじゃなくて、細マッチョ…!」
カヲル「一花に怪我がなくて良かった。」
◯キュンとする一花の口が緩み、思わずニヤけてポワンとしまう。
カヲル「どうしたの?」
一花「な、なんでもない!」
◯慌てて口元を引き締める一花。
一花(バレてないよね。あたしが筋肉フェチだって!)
♢
◯放課後の園芸部。
◯カヲルを伴って現れた一花に驚く、園芸部員たちと草汰。
◯草汰がカヲルの前に立ちはだかる。
草汰「真行寺…! まだ一花のユリを狙って⁉」
カヲル「悪いか?」
◯草汰とカヲルの間に一花が入る。
一花「入部希望なの。
今日、あたしのクラスに短期留学してきたんだ。」
草汰「マンガか! 急展開だな。」
◯カヲルが草汰を牽制するように前に出る。
カヲル「俺は、一花に習って完璧なユリを育てたいんだ。」
草汰「ユリをねぇ…。」
◯草汰の目がギラリと光るが、すぐに温和な表情に戻る。
草汰「素人に最初から球根系はハードルが高いよ。まずは育てやすい一年草から始めたら?」
カヲル「嫌だ。」
◯草汰の温和な表情が崩れる。
草汰「ナメないでほしい。
園芸はそんなに生易しいものじゃない。」
カヲル「そっちこそ俺の伸びしろをナメるな。
俺の才能と手腕で、高いハードルなんて蹴り飛ばしてやる。」
◯草汰とカヲルがバチバチに睨み合いをする。
草汰「…単に一花と一緒に活動したいだけなんじゃないのか?」
カヲル「だとしたら?」
草汰「ブッ潰す。」
◯バチバチに火花を散らす草汰とカヲル。
◯さすがの一花もオロオロとするしかない。
園芸部員A「あの温厚な部長がバトってるぞ!」
園芸部員B「しかもあの、柴犬を巡ってだと?」
◯園芸部員AとBが入道雲が立ち上る真夏の空を見上げる。
園芸部員A「これから雪が降るな!」
♢
◯トマトのハウスの前に園芸部が集結する。
◯草汰が高らかに宣言する。
草汰「勝負はトマトバトルだーッ!」
カヲル「思ってたより、地味な戦いだな。」
◯興ざめした顔のカヲル。
◯草汰はニヤリと余裕の笑み。
草汰「地味ってゆーな!
ただし、青すぎたり虫食いや日焼けなんかの製品にならないトマトはノーカンだからな!」
◯一花が慌てて口を挟む。
一花「ズルいよ。見分ける目がある分、家が農家の草汰ニィの方に分があるじゃん。」
草汰「なら、真行寺はユリを諦めてくれ。」
カヲル「俺に諦めるなんて言葉はない!」
◯冷静に見えたカヲルのこめかみに、太い青筋が浮かぶ。
草汰「じゃあ早速始めようか。時間制限は20分。で、より多くトマトを収穫できた方が勝ち。」
カヲル「いいだろう。」
一花「負けず嫌いなんだから…。」
◯園芸部員Aが、トマトのハウス前に移動してスタートの準備をする。
園芸部員A「用意はいいか?」
◯おもむろに持っていたフラッグを振り下ろす。
園芸部員A「よーい、スタート‼]
◯草汰が爆ダッシュで空のカゴを乗せた台車をハウスに運ぶ。
◯もたつくカヲルに、台車の動かし方を教える一花。
一花「気が乗らないけど、助太刀するわ。」
カヲル「いいのか?」
一花「だってフェアじゃないもん。ただし、隣で囁くだけ。取るのはカヲルよ。」
カヲル「ありがとう。」
◯素直に礼を言うカヲルに一花が胸キュン。
一花(…悪いヤツではないのよね。)
♢
◯トマトハウスで収穫の様子。
◯草汰が大量リード。
◯カヲル・一花チームは苦戦。
園芸部員A「タイムアーップ!」
◯トマトのハウスの前に大量のトマトが入るカゴを台車に乗せた草汰が立っている。
◯カヲルの前にあるカゴはトマトが少ない。
◯カヲルのカゴを見て確信に満ちた笑みを浮かべる草汰。
草汰「勝負あったな。」
一花「草ニィ…まだよ。」
◯一花が後ろに隠していたカゴを台車の上に重ねる。
草汰「なにィ⁉」
一花「しかも、さっき草ニィが製品にならないトマトはノーカンだって言ってたよね?」
草汰「ああ…。」
一花「じゃあ、そこの熟れすぎトマトもダメじゃない?」
草汰「ウッ!」
一花「ズルは無しだよ。」
◯一花が気まずい顏の草汰のカゴから赤すぎるトマトを抜く。
一花「いち、に、さん、よん…ハイ、引き分け!」
◯逆ギレした草汰が一花の背中に向かって叫ぶ。
草汰「一花、お前どっちの味方なんだよ⁉」
◯草汰に背中を向けたまま喋る一花。
一花「カヲルは一生懸命だった。」
◯トマトを夢中で取るカヲルの、玉のように流れ汗汗姿を思い浮かべる一花。
一花「ユリに対する情熱だけなら、あたしはカヲルを認めたい。」
草汰「わかった。真行寺の入部を…認める!!」
◯シリアスに俯いた草汰が、顏を上げた瞬間にパアッと明るい笑顔になる。
草汰「みんなお待たせ!
これより新入部員歓迎のトマトパーティーをやろうぜ!」
◯「ウォオ」と叫び、テンション高く盛り上がる園芸部員たち。
◯キョトンとするカヲルをよそに、みんなでバーベキューの用意を始める。
◯一花がカヲルにキャンプ用の折り畳み椅子を手渡す。
一花「アハハ。草ニィの変わりように驚いたでしょ。」
ウチの部の伝統で、新入部員とトマトバトルした後はバーベキューして交流を深めるの。」
カヲル「バトルは茶番だったのか?」
一花「ううん。あれは本気モード。遊びも活動も手を抜かないのが私たちのモットーなんだ。」
◯一花が笑いながら熟たトマトをジャージの袖で拭いてカヲルに手渡す。
一花「草ニィのトマト、ガブッといっちゃって。めちゃくちゃ甘いからビックリするよ。」
◯言われた通りにかぶりつくカヲル。
カヲル「甘い!」
◯顏がほころぶカヲルを見て、嬉しそうな園芸部員たち。
カヲル「トマトの茎も細いが生命力を感じる枝付きで、濃い緑の見た目も、黄色い可憐な花も美しい。
トマトにも可能性を感じる。生けたら面白そうだ。」
◯用意された炭火の焼き台で串に刺したトマトをあぶろうとしていた一花が噴き出す。
一花「カヲルって、四六時中生け花のこと考えてるの?
ヲタクの鏡だね。」
◯すかさず園芸部員がツッコミを入れる。
園芸部員B「轟だってユリのことばっかりだろ!」
一花「それはまぁ、そうか。」
園芸部員A「鏡じゃないぞ。轟は柴犬だからな!」
カヲル「柴犬?」
一花「余計なことをゆーな!」
◯毒を吐く園芸部員にエルボーをかます一花。
◯それを見て笑い転げる園芸部員たち。
◯和やかな雰囲気の中、草汰が一花とカヲルを見つめる。
草汰(この二人、なんだか似てるんだよね…。)
♢
◯次の日から一花と一緒にハウスでユリの手入れをするカヲル。
(一花はジャージにビニール手袋にキャップ。カヲルはプラス、大きめの麦わら帽子。)
◯汗を流してユリの根元の雑草を取っていたカヲルが、ふと気づく。
カヲル「ここでは藁を敷くんだな。」
カヲル「一花の家のハウスでは見なかったが、なぜなんだ?」
一花「これはパパのマネなの。」
◯一花が寂しそうに切り出す。
一花「でも、再婚してからのママはパパがやって来たことを全否定して、新しいことばっかりやろうとするんだ。」
◯次第に声が震える一花。
◯人知れず抑えていた気持ちが、なぜかカヲルには素直に話せる。
一花「だから、あたしは家のユリは手伝わないことにしたの。」
カヲル「…。」
◯ジッと黙ってきいているカヲル。
◯一花が話を切り上げるために笑って誤魔化そうとする。
一花「ゴメンゴメン! アンタには関係ない話なのに。」
◯鼻を赤くしてすすり上げながら、一花が強がる。
カヲル「勉強になった。」
◯カヲルが一花にポケットティッシュを差し出す。
◯遠慮なく鼻をかむ一花。
カヲル「でも一つ言いたい。
このユリを親だけではなくもっと世間に認めさせて、輝かせる方法がある。」
一花「え、どうやって?」
◯一花がティッシュで鼻を抑えながら聞く。
カヲル「一花が華道部に入り、コンクールで優勝することだ。」