恋は計算通り、君は想定外
23 物語はまだ始まっていない

「ちょっと付き合って!」
「おい」
腕を掴まれて引っ張られる。行先は緑の看板のコーヒーショップ。前にも同じような事があったが、まさかな。
「じゃあ、私は‥‥コーヒーのベンティ‥‥あと、ケーキはこの辺からこの辺、全部!‥‥店内で食べていくから」
「え?」
俺と一緒に店員も驚く。
「そちらの‥‥お客様は‥‥?」
「じゃあ‥‥ホットコーヒー‥‥小さい奴で」
「お会計は?」
聞かれて陽奈はニヤと笑った。
「彼が払いますから」
「‥‥‥‥」
払わないと無銭飲食になってしまう。納得はいかないが、俺はサイフを開く。札が一気に数枚飛んでしまった。
「‥‥‥‥どういうつもりなんだ?」
「借りができちゃったって事で」
「‥‥‥‥」
「この借りは、悠太が水沢さんと付き合うまで返せればいいなって思ってるけど‥‥どう?」
「‥‥‥‥まったく」
どういうつもりか分からないが、こうなったら陽奈に協力してもらわなければ、割に合わない。
「なら、これからきっちり動いてもらうからな」
「りょぉーかい!」
陽奈は手を上げて大袈裟に敬礼をした。
「‥‥‥‥」
俺は窓に顔を向け、日が落ちてオレンジ色に染まりつつある通りを見つめる。
いろいろあったが、スタート地点に戻っただけだ。ヒロインと主人公の物語はまだ始まっていない。
これからどんな展開になっていくのか‥‥それは具体的には何も分からない状態だが、どんな危機でもヒロインのピンチには駆けつけ、乗り越える事が出来る事は疑いようがない。
俺は物語の主人公なんだから


