私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
「そろそろ行くね。来てくれてありがとう、凛」

手を取り合い、ベンチから立ち上がる。名残惜しいけど、一ノ瀬のお陰で希望が繋がった。諦めなくてよかった。

「うん。じゃあまた……」

そう言いかけた時、遠くから涼介を呼ぶ女性の声が聞こえてきた。

「りょう~? あれ、どこいっちゃったんだろ」

もしかして、沙羅さん?

柔らかくて可愛らしい声。あの声で涼介を呼ぶんだ。私とは違う呼び方で……。

「買い物頼みたかったのになぁ」

チラチラと車と車の隙間から、スラリと背が高くて、ロングヘアーをなびかせる女性の姿が見える。顔は見えないけど、綺麗な人だということが、シルエットからでもわかる。

「沙羅だ。戻らないと」

握っていた手をそっと離すと、またねと口をぱくつかせ、涼介は足早に来た道を戻って行く。その仕草に、沙羅さんに心配をかけたくないという涼介の心の中が読み取れる。

手を離された時一瞬、少し胸が痛んだけど、すぐに大丈夫だと自分に言い聞かせた。

二人はマンションへの入り口の前で合流すると、何か話しながら入っていった。何を話してるんだろう。しかも二人とも笑ってた。

「見るんじゃなかった、帰ろう」

ヒールの音が響かないようにそっと足を踏み出すと、来た道を戻った。

いい返事はもらえたけど、ちょっぴり切ない。爪を立てたような月が、一人歩く私をポツンと照らしていた。

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