私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
「こいつ? んー、昔っから無口で、仏頂面で今とまんま同じ」
「えー、何それ。そんな中学生怖いんだけど」

菜穂が怪訝そうな口調でそう言う。だけど一ノ瀬は相変わらずの無反応。

「あ、でもさバスケ部のキャプテンしてたのもあって、女子からはクールでかっこいいとか何とか言われて、超モテてた」
「え? まじ? 意外」

そう言えば正面からじろりと鋭い視線が飛んでくる。どうやら自分の話をされるのは居心地が悪いらしい。

よくよく考えれば院内で一ノ瀬といると、しょっちゅう視線を感じる。「かっこいい」なんて声もたまに聞こえるし。

こいつをいいと思っている女性が、病院にもいるということだろう。

「一時期、俺もクール路線いけるんじゃね?って勘違いして、一日誰とも喋らないって決めたことあったわ。そしたら女子から暗いって言われて、先生からは『悩みがあるなら相談しろ』って本気で心配されただけだった」
「だっさ~!」

健くんの渾身の自虐ネタに、菜穂がテーブルをバンバン叩きながら、笑い転げている。

その豪快な笑い声につられて唯ちゃんも私も、思わず声を上げて笑ってしまった。

お調子者で、いつも輪の中心にいる健。その隣で、迷惑そうに眉を寄せる一ノ瀬。光と影みたいに正反対な二人だけど、きっと、学生時代はすごくいいコンビだったんだろうな。

「俺の青春は、ほぼ嫉妬でできてっから」

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