私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
なんて言いつつ、学生の頃からずっと菜穂が好きなのは知っている。一度、健からそう打ち明けられて以来、一途な健を密かに応援している。

たっぷりと湯気を吸い込んだコートを羽織り、私たちはもつ鍋屋の暖簾をくぐった。

温かい店内にいた時には気づかなかったが、外の空気は十一月らしい、肌を刺すような冷たさになっていた。

「あー、さっむ! もう冬じゃん」

菜穂が両腕をさすりながら大げさに身震いすると、健が「おら、俺のマフラー貸してやるよ」なんて言って、自分の首に巻いていたそれを菜穂の頭にぐりぐりと押し付ける。

「ちょ、やめろ! 髪崩れる!」

いつものようにじゃれ合う二人と、その横で「じゃあまた」と頭を下げる唯ちゃん。

私は駅へと続く明るい大通りに消えていく三人に「バイバイ」と手を振ると、隣に立つ一ノ瀬を見上げた。

私たちの家は、駅とは反対方向の静かな住宅街の中にある。ここからは、必然と二人きり。

「一ノ瀬は今日は徒歩なんだ」
「さすがに寒い」
「なるほど」
「帰るか」
「だね!」

どちらからともなく、私たちは同じ方向へと、ゆっくりと歩き出した。

さっきまでの賑やかさが嘘のように、辺りは静まり返っている。冷たい夜気がアルコールで火照った頬に心地いい。

お店で飲んだカクテルが、まだ体の芯をぽかぽかと温めている。

「わぁ~、目が回ってるー!」

< 121 / 190 >

この作品をシェア

pagetop