私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
それとも涼介に、彼を会わせたくないから? 答えの出ない問いが、頭の中を嵐のように駆け巡る。

「今出たら、絶対にややこしくなるから、やめて……」
「俺がここにいたって、あいつにお前に文句を言う権利はない」
「そう、だけど」

すると一の瀬が「あの日」と、吐き捨てるようにつぶやいた。

「お前をあいつのところに連れて行った日。本当はずっと、言ってやりたかったんだ」
「一ノ瀬……?」

キョトンと彼を見上げている間にも、彼はもう迷いを振り切っていた。

カチャリ、と無機質な金属音がして、鍵が開けられる。私の制止の声も虚しく、ドアは勢いよく開け放たれた。

ドアの先に立っていたのは肩で大きく息をし、髪を乱した涼介だった。その瞳が、絶望とほんの少しの安堵を滲ませて、私を捉える。

「凛……」

彼が、掠れた声で私の名前を呼ぶ。だがその視線はすぐに私を通り越し、私の隣に立つ存在へと移される。

涼介の瞳が、驚きと、鋭い敵意の色を宿して、キッと細められた。

「……おまえ、なんで」

二人の男の視線が、火花を散らすように交差する。部屋の空気が張り詰めた糸のように、異様な緊張に満ちていった。

1LDKの部屋の狭い玄関。そこに立つ二人の男が交わす視線は、もはやただの敵意ではない。

互いの存在そのものを否定するような、剥き出しの憎悪だった。

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