私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
「出なくていいのか?」
「どうしよう……ていうか、なんで家に」

引っ越したことは、メッセージで一度だけ伝えた。だけどその時、彼から返事はなかったのに。それなのにどうして、今になって急に。

ふと、ローテーブルに置きっぱなしだったスマートフォンに目をやると、その画面が、不在着信の通知で埋め尽くされていることに気づいた。

涼介から10件以上も電話がきてる。全然気づかなかった。

「涼介から電話かかってたみたい。沙羅さんに聞いたのかな。それで慌てて……」

言い訳しにきた? それとも……

ギュッとまた胸が苦しくなる。

ずるいよ、涼介。人がせっかく諦めようとしているのに。

再び、ドドドドンッ、と、まるで扉を破壊するかのような乱暴なノックが、私の小さなアパートを揺るがす。

その振動が、恐怖となって私の足元から這い上がってくるようだった。ゴクリと息を飲む音さえ、自分でも聞こえる。

「出るからな」

私の前に立つ一ノ瀬が静かに、だが有無を言わせぬ声でそう告げ、ドアノブに手をかけた。

「やっ、やめて……!!」

喉から絞り出したのは、自分でも驚くほどか細い悲鳴だった。

「は? なんでだよ」

当然だとでも言うように、彼が訝しげにこちらを振り返る。その問いに、ハッとした。

私、どうして、引き止めてるんだろう……? 涼介に、一ノ瀬がここにいることを知られたくないから?

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