私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
それは私がずっと聞きたかった言葉。だけど、うまく思考が回らない。
その時、隣にいた一ノ瀬の腕が、ぴくりと微かに動いたのを感じた。
「……よかったじゃん」
絞り出すような感情が一切乗っていない声。
一ノ瀬はそれだけを言うと、私のほうを一度も見ることなく、涼介の後ろにあるドアに、そっと手をかけた。
「待って! 一ノ瀬!」
切羽詰まったような声に、彼はゆっくりと振り返る。その顔に、表情はなかった。
怒りも、悲しみも、喜びも、全てを削ぎ落とした能面のような顔。ただ真剣な瞳だけが、私をじっと捉えていた。
「あの……その、」
何を、言おうとしてるんだろう、私。
何で、引き止めてるんだろう。彼は、全てを察して、私のために身を引こうとしてくれているのに。
「凛……」
私の迷いを断ち切るように、涼介が優しい声で私の名前を呼んだ。そして、一ノ瀬を引き止めようと、虚しく宙に伸ばされた私の手をそっと掴む。
一ノ瀬が静かにドアを開けたのと、涼介が私を引き寄せたのは、ほぼ同時だった。抵抗する間もなく、私は涼介の胸の中に押し込まれる。
「ごめんな」
涼介の腕の中で、閉まりかけたドアの隙間から、一ノ瀬と目が合った。ほんの一瞬のこと。
彼の口元は、笑っているように見えた。でもいつも凛々しく上がっている眉は力なく下がり、今までに一度も見たことのない、複雑な表情を浮かべている。
その時、隣にいた一ノ瀬の腕が、ぴくりと微かに動いたのを感じた。
「……よかったじゃん」
絞り出すような感情が一切乗っていない声。
一ノ瀬はそれだけを言うと、私のほうを一度も見ることなく、涼介の後ろにあるドアに、そっと手をかけた。
「待って! 一ノ瀬!」
切羽詰まったような声に、彼はゆっくりと振り返る。その顔に、表情はなかった。
怒りも、悲しみも、喜びも、全てを削ぎ落とした能面のような顔。ただ真剣な瞳だけが、私をじっと捉えていた。
「あの……その、」
何を、言おうとしてるんだろう、私。
何で、引き止めてるんだろう。彼は、全てを察して、私のために身を引こうとしてくれているのに。
「凛……」
私の迷いを断ち切るように、涼介が優しい声で私の名前を呼んだ。そして、一ノ瀬を引き止めようと、虚しく宙に伸ばされた私の手をそっと掴む。
一ノ瀬が静かにドアを開けたのと、涼介が私を引き寄せたのは、ほぼ同時だった。抵抗する間もなく、私は涼介の胸の中に押し込まれる。
「ごめんな」
涼介の腕の中で、閉まりかけたドアの隙間から、一ノ瀬と目が合った。ほんの一瞬のこと。
彼の口元は、笑っているように見えた。でもいつも凛々しく上がっている眉は力なく下がり、今までに一度も見たことのない、複雑な表情を浮かべている。