私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
それから、時計の針を見る余裕もないほどの時間が過ぎていた。
鳴りやまなかった電話は沈黙し、待合室を埋め尽くしていた患者さんたちの姿も、今はもうまばらになっている。まるで、嵐が過ぎ去ったあとのような静けさ。
「ふぅ……」
隣で菜穂が椅子に深くもたれかかり、天井を仰ぎながら、大きなため息をついた。
その音で、私もようやく張り詰めていた緊張の糸をそっと解く。それと同時に、体が正直な反応を示した。
ぐぅぅぅ~、と静まり返った受付カウンターに、情けないお腹の音を、高らかに響き渡らせたのだ。
「さすがにお腹すいたなぁ」
お腹を抑えながら、パソコン画面に表示された時刻を確認すると、午後二時を回っていた。
「怒涛の午前中だったね。私もお腹ぺこぺこ」
菜穂は疲れ切ってはいるものの、どこか戦い抜いた戦士のような、清々しい笑顔をしている。
「凛、そろそろ食堂行かない? 今日、A定食唐揚げだって」
「唐揚げか、いいね。てかよく見てるね」
「当たり前じゃーん。さ、行こ行こ!」
キーボードを打つ手を止めると二人で社員食堂に向かった。
14時をまわっていることもあり、人はほとんどおらず、食券器前もいつも行列だが、さすが誰も並んでいない。
「やっぱサバ味噌定食も捨てがたいなぁ。凛、どっちにする?」
「じゃあ、私はサバ味噌定食にしようかな」
大阪に行ったら、ちゃんと自炊しなきゃな。そんな少し先の未来を想像しながら、私は小鉢を一つトレーに乗せる。