私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~
賑やかな友人たちに背を向けゆっくりと歩き出すと、差し伸べられたごつごつとした大きな手を、もう一度力強く握りしめる。
ここにくるまでたくさんの人に迷惑をかけて、心配をかけた。たくさん泣いて、たくさん悩んだ。
だけどあの灰色だった日々があるから、今私は心の底から笑える。
「映画みたあと、なにする?」
「うち来る?」
「えっ!!?い、一ノ瀬の、家?」
「なにニヤついてんだよ」
「べ、別にニヤついてなんか……」
ちょっとそういう想像はしたけど……。
そんな私の慌てた反論に、彼は喉の奥で楽しそうにクスクスと笑った。そして繋いでいた手に、ぐっと力を込める。
「お前が泣いてる間、ただの友達のフリしてた自分に、死ぬほど腹が立ってる。だから、その分を取り戻させてほしい。俺はもっともっと、凛と時間を共有したいし、ずっと一緒にいたい。……たぶん、お前が思ってるよりずっと、独占欲強い」
「そ、そうなの!?」
「ああ。だから今から、覚悟しとけよ?」
街のイルミネーションの光の中で、にやりと彼が不敵な笑みを向ける。その男らしい眼差しに、足元から、かぁっと幸せな熱が込み上げてきた。
一ノ瀬とは友達だった期間の方がずっと長い。お互いのことなんて、きっとまだ何も知らない。
だけどそれでいい。これから二人で過ごすたくさんの時間の中で、ゆっくりと、一つずつ知っていけばいいのだから。
「望む、ところです」
精一杯の強がりでそう返すと、彼は「上等だ」とでも言うように、一度だけ私の手を強く握りしめた。
私のかけがえのない、たった一人の愛すべき人……。
二人の未来が、今ここから始まる――。
【END】


