私の愛すべき人~その別れに、愛を添えて~


◇◇◇

翌日。病院の給湯室は、朝からコーヒーの香ばしい匂いが立ち込め、忙しく働くスタッフたちの活気で満ちていた。

私は流し台でコップを洗っていた菜穂に、少しだけ緊張しながら声をかける。

「菜穂、おはよ。あのね……ちょっと話があるんだけど」

菜穂は手に持っていたスポンジをピタッと止め、眉をひそめた。

「ん? なに? そんな改まって。もしかしてまた財布落としたとか?」
「違うよ! もっとすごいこと!」

大げさに身振り手振りでアピールすると、菜穂は訝しげな顔でこちらを向いた。給湯室には私たちしかいない。今しかない、と私は深呼吸をする。

「あのね、昨日、木崎さんと……デートして、それで……付き合うことになったの」

一気に言い終えると、私の顔はカァッと熱くなった。心臓がバクバクと音を立てて、破裂しそうなほどに脈打つ。

菜穂は一瞬の間、動きを止め、まるで時間が止まったかのように、目を見開いて私を凝視している。手に持っていたスポンジが、ポトリとシンクに落ちた。

「はぁあああ!? なにそれ、聞いてないんだけど!?」

菜穂の絶叫が給湯室中に響き渡り、私は慌てて口元に人差し指を立てた。

「しーっ! 大きい声出さないでよ! 誰かに聞かれたらどうするの!」
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