白衣とエプロン②お医者様は今日も妻に恋わずらい
どこかで菓子屋の陰謀(?)と思いつつ、無視できないのがバレンタイン。

ちなみに、私の彼はどちらかというとチョコレートはあまり食べないほう……。

シュークリームやチーズケーキはたぶん好きだと思う。あとは和菓子とかも。

ならば、別にチョコレートにこだわる必要もないのだろうけど。

なのに、どういうわけかチョコの呪縛から逃れられないバレンタイン……。

そこで、私は無い知恵を絞ったわけだけど――。

玄関のドアが開く音がして、忠犬よろしくいつものとおり駆けつける。

「おかえりなさい」

「ただいま。やっぱり遅くなってしまった」

くっつき虫の私を彼がきゅうっと抱きしめる。

「お鍋の用意できてますよ」

「うん。今夜は寒いから鍋が嬉しいね」

ダイニングテーブルでお鍋をつつきながら、今日の出来事などを語り合う穏やかな夕食。

いつものように食後のお茶を用意したところで、彼が何やら申し訳なそそうに“お土産”を出してきた。

「職場でいただいてしまいました」

叱られ待ち(?)の男の子みたいな表情に思わず頬が緩む。

「バレンタインて男性のほうが大変ですよね」

「感謝の気持ちをいただけるのは有難いというべきなのだろうけど。まあ、気は遣うね」

「秋彦さん、チョコレート少し苦手ですよね。よかったら私がいただいても?」

「どうぞどうぞ」

「じゃあ、食べさせてもらうからには、お返しも私が責任を持ってご用意しますね」

「助かります」

「なんか“妻ぶっている”みたいで恐縮てすけど」

「いや、本当助かるので。それに、妻ぶるも何も、ほぼほぼ妻だし?」

彼がくすりと笑い、私も嬉しくなってふふふと笑う。

「えーと。私もお渡ししたいものがありまして」

「うん?」

私は今日のために用意していた“とっておき”を差し出した。

「一応バレンタインにちなんで、です」

「開けてみても?」

「もちろん」

ベージュの包装紙に焦げ茶のリボンのシックなラッピング。

彼が丁寧にリボンをほどいて開いて出できたのは――。

「チョコレート???」

「と見せかけて、入浴剤です」

「おおー、これはこれは」

見た目はいかにもな高級チョコレート、だけど実はバスボムという。

「チョコレートなのは外見だけで、匂いもぜんぜんチョコじゃないんですよ」

「本当だ。お茶の香りって書いてある」

「シトラスティー、ホワイトティー、ミントティー
、そんな感じだったかと」

「うん」

彼が楽しそうに、ちょっと大きめの“高級チョコ”をしげしげと眺める。

「今夜さっそく使っても?」

「もちろんです」

「よかったら、一緒にどう?」

(あ、先に言われた……)

「私から」

「うん?」

「お誘いするつもりだったのに、お風呂」

わざとちょっと恨めしそうに言ってみた。

「えー、だったらお誘いされたかったよ。やり直そう、はいどうぞ」

「そんな無茶な……」

彼が思い切り悔しがってくれたから嬉しくて。

「そのうちきっとお誘いしまよ、私から」

私はちょっとだけ期待させるようなことを言いつつ、にっこり笑った。

「とりあえず、今夜はご一緒に」
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