白衣とエプロン②お医者様は今日も妻に恋わずらい
気まぐれな飼い猫というより、これではまるでいじらしい忠犬のよう。

「秋彦さんは、今日はもうおしまいですか?」

「そうだね。千佳さんは?」

「私も今日は店じまいです」

歯磨きもしたし、ご飯の予約だってセット済みだし、あとはもう――。

「じゃあ、寝ようか」

「そうですね」

ふたりともすぐには寝ないことをよくわかっているくせに。

あらかじめオイルヒーターを入れておいたので、寝室はちょうどいい塩梅に暖かかった。

そして、いい塩梅になっているのはお部屋の温度だけじゃなくて――。

まったく寝る気のないふたりが、ベッドの端に並んで掛ける。

「千佳さん、寝る前に時間ある?」

「それはもう、たっぷりと?」

顔を見合わせ笑い合って、それから静かに見つめ合う。

彼の手が私の髪を優しく梳いて耳にかけ、頬に触れ、肩に置かれる。

(ずっとずっと、こうしたかった)

とろけるような甘い空気に包まれながら、手と手を重ね、唇を重ねる。

ずっと焦がれて待ちわびて、ようやくたどり着けた、いま“このとき”。

(もっと、ずっと、こうしていたい……)

なのに、そんな私の気持ちを知ってかしらずか、彼がためらいがちに唇を離す。

(もう少し……)

なんだかちょっと淋しい気持ちで、おずおずと顔を上げると――。

「まいったな」

「え?」

穏やかだけれど熱っぽい彼の視線につかまった。

「千佳さんが可愛すぎて困る」

「そんなこと……」

「優しくできなかったらごめん」

「えっ、な……っ」

その刹那、彼は無造作に眼鏡を外すと、私の言葉をキスで強引に遮った。

始まりのキスのような優しいそれとは違う、くらくらするような、とても深くて熱いキス。

甘い熱にからだがとけて、すべてのたがが外れてしまうような。

甘い痺れにとらわれて、すべての自由を奪われたような。

おかしな感覚に、ふわふわして、くらくらして。

あまり彼らしくない強引さに、ドキドキする。

(もっと、ずっと……もっと……)

きっと、欲しがりなのは私のほう。

気持ち乱暴に(といっても十分優しいのだけど)押し倒されて、天井を背景に彼を見る。

(電気、つけたままなんだけどな……)

恥ずかしさにぷいと視線を逸らすも、彼にされるがまま。

優しいキスの雨はくすぐったいのに気持ちがよくて、ドキドキしながら、なんだかほっこり嬉しくなる。

そうして、すっかり胸がはだけて本日の下着があらわになったところで、彼が一言。

「オレンジ?」

「アプリコット、だそうです」

決して狙ったつもりはないのだけど、今さらながら無意識にカボチャに引っ張られていたのかも?

「可愛い。千佳さん、こういう色も似合うね」

(もう、そうやってさらっと臆面もなく褒めるから!)

すごく嬉しくて、嬉しすぎて気恥ずかしくて、ついつい可愛くない態度に……。

「じゃあ、つけたままにしときます?」

「いや、脱がすけどね」

そりゃあまあ、こちらも脱がされるために装備(?)してきておりますが。

「電気、つけたままなんですけど?」

「ダメ? ほら、僕は眼鏡外すとけっこう見えないし?」

「どれくらい見えないか、入れかわって検証してみたいところですね」

私がふふふと笑うと、彼が釣られたようにくすりと笑う。

「まあ、仕方がないか。オレンジなのもわかったし」

「アプリコットですよ」

「そうそう、アプリコット。そういえば、常夜灯のことを千佳さんは“小さい電気”って言うでしょ?」

「言いますね」

「ちょっと思い出したのだけど、子どもの頃に友達が“オレンジ電気”って言っていたな、と」

確かに、常夜灯の色はオレンジ色っぽいかも?

「なんか今夜はオレンジづいてますね。この下着も、小さい電気にしたらよりオレンジになるかも?」

「アプリコットでしょ」

「そうそう、そうでした。よりアプリコット?」

まあ、どうせほどなく脱がされてしまうのだけれど。
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