白衣とエプロン②お医者様は今日も妻に恋わずらい
お医者様の職業病って???
「基本的に相手の反応に敏感というか。冷静に観察できる状態が常態というか」
言われてみれば確かに納得。
だって、初対面の人の体に触れて処置をしたりするのだもの。
「だから、冷静さを保とうと意識しなくても、自動的にそういう回路が働いてしまう、みたいな?」
「自動的に、ですか」
「ただ、そうは言ってもだよ」
「えっ」
(ああっ……)
瞬間、しっかりと組み敷かれて両手の自由を奪われる。
「好きな人はまた別だから。とても冷静ではいられないこともあるわけだ」
「あぁ……っ」
(もう、耳とかっ!)
耳たぶを甘く食まれて、体がびくんと反応する。
「感情的になりすぎるのはどうかと思いつつ、ね」
決まり悪そうに言いながらも、どこも悪びれた様子がないような……。
「君が思っているほど僕は余裕がある男ではなくて。案外えげつないことを考えていたりするのかもよ?」
(えっ……)
彼はそう言ってにっこり笑うと、ちょっと強引でひどく官能的なキスをした。
(えげつないって、こういうっ……)
そのキスは、優しい微笑みとは裏腹に、刺激的に甘く蠱惑的で。
(ああもう、これって底なし沼だ)
私はすっかり翻弄されて、前後不覚に。
「可愛いね、千佳さんは」
「意地悪です、秋彦さんは……」
「意地悪な僕は嫌い?」
(そうやって、わかっているくせに)
「千佳さん?」
「……嫌い、じゃないです」
(だって、本当は優しいって知ってるもん)
ちょっと恨めしそうに呟く私を、彼が愉快そうにのんきに笑う。
「好きな女の子を苛めちゃう男の子の心理って、こういう感じなのかあ」
「なっ……」
「本当、千佳さんが可愛すぎて」
そうして、私は彼の新たな一面を少しだけ知った――。
「お風呂、一緒にどう?」
「そうですね……」
いつもなら、いわゆる“事後”はぬくぬく眠ってしまうのだけど。
今夜はなんというか、いつになく“ヨレヨレ”で。
必ずしも“激しい運動”をしたわけでもないのに、ぐうの音も出ないありさま?
翌朝また入るつもりでお湯を落とさずにいてよかった。
追いだきがおわって、さあ入ろうとお風呂のフタを開けると――。
「そういえば」
「温州みかん、だったかと」
オレンジ色のお湯に思わずふたりで苦笑い。
すっかり忘れていたけど、ここにもオレンジが潜んでいたとは。
(むむむ、おそるべし無意識)
向かい合って湯船に浸かりながら、なんとなく“今後”のことが話題になる。
「千佳さんのお家にご挨拶に伺うのは3月でよさそうなんだよね?」
「はい。秋彦さんのお家のほうも、ですよね?」
「うん。それで大丈夫」
私たちは結婚についての“前振り(前説?)”をすべく帰省して、大晦日と元日をそれぞれ実家で過ごした。
そもそも同棲をする際に、両親には真剣にお付き合いしている人として、秋彦さんの素性などなどは説明済みではあったのだけど。
お正月に、具体的に春には入籍したいという考えを伝えたところ、両親は手放しで大喜び。
けれども、兄だけは冷静だった。
「盆と正月が一緒にきたみたいだ」と小躍りする両親に「今はもともと正月だ」と冷静な突っ込みを入れた兄。
ちなみに、兄と私は顔はあまり似ていないが、性格は割と似ていたりする。
両親が居ないところで、兄は私に言った。
「父さん母さんはあんなだけど、ちぃが堅実な人間でよかった」
兄は私のことを「ちぃ」と呼ぶ。
「私こそ、謙クンが冷静なオトナでよかったよ」
私は兄の謙吾を「謙クン」と呼ぶ。
「謙クンにまで“玉の輿だあ”なんて浮かれられたら、私けっこうきつかったもん」
「手に職という点では食いっぱぐれる心配は少ないだろうけど。医者と結婚すれば玉の輿だなんて考えは古すぎだからな」
「わかってる。彼は優秀で誠実な人だけど、私は私でしっかり働かなきゃって思ってるから」
「基本的に相手の反応に敏感というか。冷静に観察できる状態が常態というか」
言われてみれば確かに納得。
だって、初対面の人の体に触れて処置をしたりするのだもの。
「だから、冷静さを保とうと意識しなくても、自動的にそういう回路が働いてしまう、みたいな?」
「自動的に、ですか」
「ただ、そうは言ってもだよ」
「えっ」
(ああっ……)
瞬間、しっかりと組み敷かれて両手の自由を奪われる。
「好きな人はまた別だから。とても冷静ではいられないこともあるわけだ」
「あぁ……っ」
(もう、耳とかっ!)
耳たぶを甘く食まれて、体がびくんと反応する。
「感情的になりすぎるのはどうかと思いつつ、ね」
決まり悪そうに言いながらも、どこも悪びれた様子がないような……。
「君が思っているほど僕は余裕がある男ではなくて。案外えげつないことを考えていたりするのかもよ?」
(えっ……)
彼はそう言ってにっこり笑うと、ちょっと強引でひどく官能的なキスをした。
(えげつないって、こういうっ……)
そのキスは、優しい微笑みとは裏腹に、刺激的に甘く蠱惑的で。
(ああもう、これって底なし沼だ)
私はすっかり翻弄されて、前後不覚に。
「可愛いね、千佳さんは」
「意地悪です、秋彦さんは……」
「意地悪な僕は嫌い?」
(そうやって、わかっているくせに)
「千佳さん?」
「……嫌い、じゃないです」
(だって、本当は優しいって知ってるもん)
ちょっと恨めしそうに呟く私を、彼が愉快そうにのんきに笑う。
「好きな女の子を苛めちゃう男の子の心理って、こういう感じなのかあ」
「なっ……」
「本当、千佳さんが可愛すぎて」
そうして、私は彼の新たな一面を少しだけ知った――。
「お風呂、一緒にどう?」
「そうですね……」
いつもなら、いわゆる“事後”はぬくぬく眠ってしまうのだけど。
今夜はなんというか、いつになく“ヨレヨレ”で。
必ずしも“激しい運動”をしたわけでもないのに、ぐうの音も出ないありさま?
翌朝また入るつもりでお湯を落とさずにいてよかった。
追いだきがおわって、さあ入ろうとお風呂のフタを開けると――。
「そういえば」
「温州みかん、だったかと」
オレンジ色のお湯に思わずふたりで苦笑い。
すっかり忘れていたけど、ここにもオレンジが潜んでいたとは。
(むむむ、おそるべし無意識)
向かい合って湯船に浸かりながら、なんとなく“今後”のことが話題になる。
「千佳さんのお家にご挨拶に伺うのは3月でよさそうなんだよね?」
「はい。秋彦さんのお家のほうも、ですよね?」
「うん。それで大丈夫」
私たちは結婚についての“前振り(前説?)”をすべく帰省して、大晦日と元日をそれぞれ実家で過ごした。
そもそも同棲をする際に、両親には真剣にお付き合いしている人として、秋彦さんの素性などなどは説明済みではあったのだけど。
お正月に、具体的に春には入籍したいという考えを伝えたところ、両親は手放しで大喜び。
けれども、兄だけは冷静だった。
「盆と正月が一緒にきたみたいだ」と小躍りする両親に「今はもともと正月だ」と冷静な突っ込みを入れた兄。
ちなみに、兄と私は顔はあまり似ていないが、性格は割と似ていたりする。
両親が居ないところで、兄は私に言った。
「父さん母さんはあんなだけど、ちぃが堅実な人間でよかった」
兄は私のことを「ちぃ」と呼ぶ。
「私こそ、謙クンが冷静なオトナでよかったよ」
私は兄の謙吾を「謙クン」と呼ぶ。
「謙クンにまで“玉の輿だあ”なんて浮かれられたら、私けっこうきつかったもん」
「手に職という点では食いっぱぐれる心配は少ないだろうけど。医者と結婚すれば玉の輿だなんて考えは古すぎだからな」
「わかってる。彼は優秀で誠実な人だけど、私は私でしっかり働かなきゃって思ってるから」