白衣とエプロン②お医者様は今日も妻に恋わずらい
とはいえ、両親が大賛成というのはありがたい。

もちろん、兄の見守りも。

そして、何より彼のご両親の感触がよかったことは、私を心底ほっとさせた。

「私、皆さんには本当、足を向けて寝られませんね」

皆さんというのは、彼のお姉さんと弟さん、それに職場の上司でもあり彼の幼馴染でもある麗華先生のこと。

「御三方の後押しがあったから、ご両親も賛成してくださったのかなって」

私はお姉さんと弟さんと面識があり、お姉さんとは今もときどき一緒にご飯を食べたり、可愛がっていただいている。

お正月の保坂家の様子を詳しく教えてくださったのは麗華先生。

麗華先生のご実家と彼のご実家は何しろ家族ぐるみのお付き合いということで。

ご自身も帰省された麗華先生は保坂家を訪れ「ばっちり援護射撃してきたからね!」と。

まったく、重ね重ねありがたいやら、申し訳ないやら。

「三人のお墨付きがなくても心配なかったと思うけどね、僕は」

彼はそう言うけど、私は正直ご両親に難色を示されても仕方がないと覚悟していた。

彼のお家はいわゆる医者家系で、上のお兄さんの奥様もお医者様だ。

比べて、私はというと……。

看護師や薬剤師のようなコメディカルと呼ばれる専門職ならまだしも、有資格者でなくても務まる事務職だもの。

「父はともかく、僕の母は医者の家に生まれたわけでもなく、苦学して医師になった人なんだよ」

「そうなんです?」

それは初耳で、ちょっとびっくり。

「だから、こういう言い方もなんだけど、ちゃんと普通の感覚を持ち合わせているというか」

「そうなんですね」

苦笑いする彼につられて私も笑う。

「これは伯母に聞いた話なんだけど、母は代々医者の家系のような家に嫁ぐのは嫌だったそうで」

「えっ」

「伯母が言うには“あの娘(こ)は本当に玉の輿なんてちっとも興味がなくてねえ”と」

「それはそれは」

「でも、父のモーレツなアプローチに根負けする感じでお嫁にきたんだって」

「なんと……」

「まあ、なんだかんだで夫婦仲は良好なんで、子どもとしては助かってはいるんだけど」

彼はそう言ってふわりと笑うと、手のひらでお湯を掬って、私の肩にさらりとかけた。

「まあつまり何が言いたいのかというと、千佳さんは何も心配しなくてよいよということ」

「わかりました」

(それは、うん。きっとそう)

私は彼の言葉を信じて素直に頷いた。

ところで、こんなふうに話している私たちだけれど――。

「あの、3月というと……」

「もちろん、ちゃんとプロポーズするから」

互いの家に挨拶に行く話なんぞをしているのに、実はプロポーズがまだの件……。

いやまあ、まだといっても“正式にはまだ”というだけで、内々には結婚することで合意形成はなされていて。

(理屈っぽい、なんて理屈っぽいのだろう……)

ざっくり言うと、彼なりの心遣いというか、私のわがままというか。

3月は私の誕生月でもあるので、最高の誕生日プレゼントにもなるねという話もあって。

想い出に残る素敵なプロポーズをしてあげたいと、彼が一生懸命考えてくれたわけである。

私は私で、結婚のための心の準備の前段階として、プロポーズされるための心の準備(?)をしたい気持ちがあったりして。

そんなこんなで3月、みたいな?

ちなみに、プレゼントはプロポーズの言葉だけではなくて――。

「チェロの練習、大変です?」

「それは大丈夫」

なんと、婚約記念の贈り物として彼が私のためにチェロを弾いてくれる約束なのだ!

曲は、エドワード・エルガーの『愛の挨拶』。

エルガーが婚約者へのプレゼントとしてこの曲を贈ったというエピソードにならって、私への贈り物として弾いてくれるというのだから。

「私も何かお返しを用意しないとですね」

「ただ聞いてくれるだけで十分なんだけどね」

(私の彼はなんて無欲なのでしょう!)

「何でもいいんですよ、私にあげられるものならですけど」

「……何でも?」

(あ、なんかちょっと目の色が変わったような……?)

ほんのちょっと後悔しつつ、気前よく言い切ったものは仕方がない。

「考えておいてくださいね、春までに」

ミカンの美味しい季節が過ぎて、桃や桜が芽吹く季節になるまでに――。











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