水色に混ざる夏
ルーズソックスを調整していると、近くの席に座っている女の子達の会話が、ふと聞こえてきた。

「ねえ、聞いた? 夏井商店(あの駄菓子屋)、なくなるかもって」

「マジ? 夏休み限定でかき氷やってるとこでしょ?」

「そうそう。建物古いし、あのへんマンションになるらしいよ?」

突然聞こえてきたその話に、わたしと透くんは同時に顔を上げて見合わせた。

「そーなんだ……それよりもさ、明日30度になるって!」

「明日はミナミナ集合で決まりじゃん!」

女の子達は駄菓子屋にはあんまり興味がなくて、すぐ別の話題で盛り上がってるけど、わたしたちが気になるのは勿論……

「お店がなくなる……そんなこと、あるのかな」

「……わからない。でも、もしこの95年が、俺たちの知ってる25年に繋がってなかったら……」

透くんは一瞬、目を伏せた。

「え、それって……どういう意味?」

「まだ確かじゃない。ただ……もし繋がってないなら、俺たちは単に過去と未来を行き来してただけじゃなかったことになる」

透くんの言葉は、まるで霧の向こうから聞こえてくるみたいだった。ちゃんと意味はわからないのに、その響きだけで、胸の奥がひやりとした。

それに気づいたのか、透くんは少しだけ笑って言った。

「……まあ、もし本当に無くなるとしても、なくなる前に戻れば問題ないさ。……問題があるとすれば、夏祭りに行けなくなることくらいかもな」

「うん……」

それが、わたしを安心させようとしてくれた言葉だったって、あとになって気づいた。

……透くんは、わたしの不安をちゃんと見てくれてる。

「確かめに行こう。何か気になるなら、動いた方が早い」

透くんの言葉に、わたしは力強く頷いた。

図書館の窓の外、雨はまだ止まないけれど、遠くの空は少しだけ明るくなってきている。

その光を見つめていると、わたしの不安混じりの心にも、光がさしてくるような気がした。
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