最強の騎士団長に嫁いだ偽りの公爵令嬢は、溺愛から逃げられない
 問い詰めるように尋ねた。

 ヨウムのフィンとは、公爵家に連れてこられた幼い日からの付き合いだ。

 孤独な屋敷で、唯一心を許せる相棒。彼だけが、雨の日も雪の日もリーゼに寄り添い、誰にも話せない秘密を共有してきた。
 言葉以上の意思を通わせる彼には、リーゼの焦りなどお見通しだろう。

 フィンは一度だけ小さく首を傾げると、宙へ向かって叫んだ。

「コクオウ、アワズ。……コクオウニ、アワズ」

 フィンが繰り返す言葉の意味を理解し、リーゼの背筋に冷たいものが走った。

「お父さまは陛下に会えなかったのね……」

 現国王マリウス・フォン・ラグローリア陛下は、十八歳の若き国王。レナートに絶大な信頼を置くと聞く。

 今日はアルブレヒトが謁見する手はずになっていた。すでに城へ到着していた父を差し置いて、マリウスはレナートとの面会を優先したのだ。

「お父さま……怒っているわね、きっと」

 報告がもう少し早ければ、父は陛下との謁見を急かしたはず。リーゼの失態を、父が許容するはずがない。

 代償は鞭打ちだろうか……。いや、リヒトの身に危険が及ぶかもしれない。

 アルブレヒトの怒りを想像すると、全身がぞわりと震える。

 気持ちを落ち着かせようと、肩に乗るフィンの背中をするりとなでたリーゼは、彼の足に縛り付けられた紙切れに気づいた。

「お父さまからの手紙ね?」

 リーゼはすぐにそれをほどき、サッと目を通す。
 乱暴な筆致で、ただ一言、こう書かれていた。

『シルヴィオを宝石商バルタザールのもとへ連れていけ』

 拒否権などない、絶対の命令だった。

(バルタザール……?)

 王都の宝石店はすべて頭に入っているが、そのような名の店は聞いたことがない。

 では、裏通りの店だろうか。
 だとしたら、父はなぜ、そんな場所を指定したのか。

 考え込もうとしたそのとき、部屋に近づいてくる確かな足音が、扉の向こうから聞こえてくる。

 シルヴィオだ。

 リーゼは弾かれたように窓辺から離れると、燃え盛る暖炉の炎の中へ手紙を投げ込み、フィンを鳥籠へと戻した。

 手紙が跡形もなく燃え尽きた直後、ノックとともに扉が開く。

「……まだここにいたのか」
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