【第一部完結】転生幼魔女は生き延びたい!~唯一無二の力はナイショだよ〜
「わっ!」

 突如として激しい風が吹き荒れ、セレスティアは腕で顔を覆って目を閉じた。
 息もできないほどの強風。まるで嵐に呑み込まれてしまったかのように、身体が前後左右に揺さぶられる。

 ひぃいいい!と心の中で叫びを上げたのも束の間、地面に投げ出されたような衝撃の後、襲い来る風はぴたっと収まった。

「いててて……」

 (うめ)きながら顔を上げれば、目に飛び込んできたのは広大な湖だった。

 鏡のように凪いだ湖面が、夜空に浮かぶ満月をくっきりと映し出す。
 まるで月がふたつあるかのような幻想的な光景に、セレスティアは息を呑んだ。

 そして真夜中の暗闇をほのかに照らし出す銀色の光。
 立ち上がって近づくと、水辺に生い茂る草が星のようにきらめいていた。

「ほしつゆくさ……」

 前世で集落の男衆たちが採ってきたものは、こんなにも輝いていなかった気がする。どうやらここに住むケルピーは、星露草の世話がとても上手なようだ。

 そしてなにより、想像以上に強力な妖精であることも窺える。

 なにせ対岸が見えないほど大きな湖を、すべて自分の縄張りにしているのだ。
 力の弱い妖精なら、人間から自身の姿を隠すだけで精一杯。中級の妖精でも、こんなに広大な聖域は展開できないと思う。

(大変なところに来ちゃった……。気を引き締めないと)

 ごくりと生唾を呑み込んだセレスティアは、警戒しつつ辺りを見回した。
 だがケルピーと思しき若馬の姿はおろか、直前まで一緒にいたマリアベルやシルフたちの影すら見当たらない。

 しんとした静寂の中にひとりきり。
 まるで知らぬ土地に取り残されたような心細さに襲われるも、セレスティアは両手をきゅっと握り締め、「だいじょうぶ、だいじょうぶ」とみずからを奮い立たせた。

 ここに招かれたということは、聖域の主であるケルピーがどこかにいるはず。
 ひとまず急に水底へ引き込まれないよう湖から距離を取り、辺りを散策しようとしたその時。


『やあ、お嬢さん』


 背後から涼やかな男性の声が聞こえ、セレスティアはびくりと肩を跳ねさせて振り返った。


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