野いちご源氏物語 四六 椎本(しいがもと)
長谷(はせ)(でら)でのお参りをすませ、宇治(うじ)に到着なさった。
夕霧(ゆうぎり)大臣(だいじん)様の風流(ふうりゅう)な別荘におもてなしの用意がされている。
あいにく大臣様はお(とも)をなさっていない。
お迎えにはいかれるおつもりだったけれど、(うらな)いの結果がよくなくて、都のご自宅に(こも)っていらっしゃる。

代わりに(かおる)(きみ)がお迎えに参上なさった。
匂宮(におうのみや)様はご機嫌(きげん)を直される。
<夕霧大臣が出迎えないのは(しゃく)だと思ったが、かえって薫の君の方が気楽でよいな。向こう岸にある(はち)(みや)様の山荘(さんそう)とやりとりをして、姫君(ひめぎみ)たちの様子を私に教えてくれるかもしれない>
大臣様のことは説教くさい堅物(かたぶつ)だと思って、苦手にしていらっしゃるの。

大臣様のご子息(しそく)はたくさんお供をなさっていた。
匂宮様は、(みかど)明石(あかし)中宮(ちゅうぐう)様が特別に目をかけておられる親王(しんのう)様。
もちろん世間から尊敬されておいでよ。
しかも夕霧大臣のご一族からすれば、お身内(みうち)の明石の中宮様がお生みになったお子だもの。
帝や東宮(とうぐう)様にお仕えするのとはまた別に、個人的な主人のように大切になさっている。
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