君の事好きになっても良いですか?

俺は一瞬言葉を詰まらせた。
そして、視線を逸らしそうになりながらも
勇気を出して向き直る。

「俺もめっちゃ楽しかったし、」
「琴音ちゃんと来られて良かった。」
「次は、行けてないアトラクション」
「乗ろうな。」


俺絶対、顔が熱い。

”もっと一緒にいたい”
が言葉にしてしまいそうでグッと堪えた。
あまり遅くなったら琴音ちゃん危ないし。
でも、琴音ちゃんがたくさん嬉しそうに
笑ってくれたから、今日来れて良かったって
心から思った。



「うん!」



「じゃそろそろここを出よう。」
「あまり遅くなるのも良くないしね。」




夕方の風が、昼間の熱気を連れてどこかへ
行ってしまったみたいにひんやりしていた。
閉園前のアナウンスが遠くで流れる。
光の粒みたいな人の声や、
今日乗った観覧車の影が少しずつ夜に
溶けていく。
私は歩きながら、そっと隣の理央君を見上げた。
さっきまで無邪気に笑ってはしゃいでいた
胸の鼓動は今はゆっくりになっている。
だけど、熱は残ったまま全身が火照っていた。



帰りの電車は、
朝より少し冷えた空気を連れ去っていった。
吊革が小さく揺れ、車内の窓に映る俺達の
肩がほんの少し触れたり、離れたりする。



私は、さっきまでの遊園地の光景を
思い返しながら胸の奥に残る熱の正体を
言葉にできずにいた。
隣の理央君は窓の外を見ていたけれど、
その横顔はどこか静かで、余韻に
浸っているようにも見える。


電車のアナウンスが響く。

「次はーーー綾部、綾部です。」


その瞬間私の吊革を持つ指先が、
ピクリと反応した。
理央君が先に降りる駅。
別れの時間が着々と近づいている。

ほんの少し、胸がキュッと苦しくなる。




俺は小さく息を吐いて、
琴音ちゃんの方へ向き直った。


「もうすぐ……俺、降りる駅だ。」



「あっ……うん、そだね。」
「なんか、早いね……今日。」


私は笑顔で言おうとしたけれど、
声が少し震えてしまった。
理央君はそれに気づいたのか、
眉尻を下げて柔らかく笑った。


「なんかさ、帰りたくないって」
「思ってるの、俺だけじゃないといいな。」


「理央……君だけじゃないよ。」


私は視線を落とした。
言った途端に胸と顔が熱くなる。
もっと強く言えたらいいのに……
距離が詰まりすぎて怖い。

電車が減速し始める。
理央君の降りる駅が近付く音が余計に、
心をざわつかせる。

「琴音ちゃん。」


「ん?」


「今日俺の隣にいてくれてありがとう。」
「帰るのちょっと切ないな。」


その言葉は、不意に触れてくる指先みたいに
優しくて……私の胸を甘く締め付けた。


「わっ私も……隣にいてくれて」
「ありがとう。」
「楽しかった!」
「理央君と……っ。」


私が言いかけた言葉をさえいぎるかのように
電車が静かに止まり、ドアが開く。

理央君は吊革から手を離し、
小さく息を飲むように私の顔を見て
言葉を発した。


「じゃ、またtalkするね。」
「また月曜日朝の電車で。」



「うん……気をつけて帰ってね。」



理央君は電車を降りる前、
少し後ろを向き、私に手を振った。
そのまま照れた顔をして理央君は
電車を降り、閉まるドアの向こうで
理央君の後ろ姿が遠いのいていく。

残された私は、窓に映る自分を見ると
頬がまだうっすら赤くなっていた。
やっぱり私今日、理央君に初めての恋を
してしまったのだと自覚してしまった。

恋をした日の帰り道はいつもより鮮やかに
見えた。




第6話 初めての恋

END
< 48 / 154 >

この作品をシェア

pagetop