君の事好きになっても良いですか?

薄く灯りのついた静かなリビング。
その空気が余計、胸の奥をざわつかせる。


やばい……やばいって……
あの弱った声や顔とか反則すぎるって。
まじでやばかった……。

ソファーに腰を下ろし、
背もたれに寄りかかり、両手で顔を覆う。
つい、さっきまでの彼女の熱を帯びた
体温が指先に残ってる気がして、
鼓動が落ち着かない。

俺、看病しに来ただけなのに……
何、考えてんだよ……。

30分ぐらい俺は目を閉じて、
精神統一をした。

自分を言い聞かせるように、
息を整えていると琴音ちゃんの部屋から
微かに、布団が動く音が聞こえた気がした。

ようやく気持ちが落ち着きはじめた
ところで、俺はソファーから立ち上がり、
冷やしタオルを1枚準備して琴音ちゃんの
部屋へそっと戻っていった。


17時頃。
窓の外が夕焼け色に変わりはじめ
た頃、琴音ちゃんの熱はようやく
微熱まで下がってきた。
少し元気を取り戻した様子で少し安心。

俺が作ったお粥を、フーフーと冷ましながら
ゆっくりスプーンで口に運ぶ琴音ちゃん。
本当……良かった……。


「理央君、理央君のお陰で」
「本当、楽になった。」


まだ少し弱い声だけど、さっきよりも
確実にしっかり意識はあり、
その言葉だけで本当に良かったと
安心できた。

琴音ちゃんがお粥を食べ終えると、
俺はキッチンに食器を置きに
行ったところで、
ガチャっと玄関の鍵が乱暴に回る音が
した。

玄関の扉が勢いよく開き、
「琴音!大丈夫なの!?」
という琴音ちゃんの
お母さんの切迫した声が響いた。
俺はそのままリビングで固まっていた。

そして琴音ちゃんのお母さんが
入ってきた瞬間、
俺を見たお母さんの足がピタリと止まった。


「えっ?……誰!?」

当然の反応だ……。
自分と娘の家に、知らない男子が
ひとり立っている。

「えっ……?」

琴音ちゃんのお母さんは
驚きながら”えっ?”しか言えてなかった。

俺は瞬時に背筋を伸ばし、
めちゃくちゃ丁寧に頭を下げた。


「すっ……すみません!」
「俺、琴音ちゃんの友達の」
「田口理央と言います!」
「きょっ……今日、その……」
「琴音ちゃんから体調が悪いと」
「聞いて……っで……で」

噛みながら必死に説明している俺を、
琴音ちゃんのお母さんは驚きと、
警戒の混じった目で見つめる。
その視線の圧がとにかくすごすぎて
俺の心臓の鼓動がめちゃくちゃ
うるさく体の中で響く。

やばい…完全に俺、不審者扱いじゃん。

そんな空気の中、琴音ちゃんの部屋の
ドアがかすかに開き琴音ちゃんの声が
聞こえた。

「お母さん?」


琴音ちゃんのお母さんは
琴音ちゃんの部屋に行き、
俺もその後をついて行った。


「熱は?」

そう言って琴音ちゃんの
お母さんは、おでこに手を添えた。


「引いてる。」


「理央君がね、看病してくれたんだよ。」
「私が風邪引いちゃってひとりって」
「talkのメッセージを送ったら」
「駆けつけて来てくれたの。」



その言葉で、琴音ちゃんのお母さんは
俺の方へ振り向いた。


琴音ちゃんのお母さんは表情が
柔らかくなっていた。
見るからにあの警戒した表情は
完全に消えていた。


「あなたが、琴音を?」

俺は姿勢を正して答えた。

「はい……あの……」
「琴音ちゃんとtalkでやり取りして」
「た時に、風邪引いてお母さんも仕事で」
「どうしても家を出ないといけなく」
「家でひとり安静にしてると聞いたので。」
「心配になって来てしまいました。」

琴音ちゃんのお母さんは、
俺をじっと見た後、肩から緊張が抜けた
ように息を吐いた。

「……びっくりしたわ。」
「帰ってきたら、知らない男の子が」
「いるんだもん。」
「心臓止まるかと思ったわ。」



「すっ……すみません。」


「謝らないで。」
「すごく助かったわ!」
「本当にありがとう。」

琴音ちゃんのお母さんは柔らかい声に変わり、
安心してくれた。


「これで、俺も一安心なので」
「帰ります。」


そう言って俺は玄関に向かおうとした時─


「理央君……帰っちゃうの?」

か弱い声で呼ばれて振り返ると、
琴音ちゃんは布団からそっと手を伸ばしていた。
それを俺はぎゅっと手を握り返した。

琴音ちゃんのお母さんは、そのやり取りを見て
目を丸くしながら微笑んだ。
完全に琴音ちゃんのお母さんには
バレてしまった。
琴音ちゃんが特別な事を。


琴音ちゃんのお母さんは、
状況瞬時に理解したように小さく頷き
俺の方へ顔を向けてきた。
その表情は、驚きも警戒も全て消えて、
どこか柔らかく……母親らしい温かさがあった。


「理央君。」



「はっ、はい。」

緊張で少し声が裏返る。


「今日1日琴音を看てくれてたの」
「でしょ?」
「本当に助かったわありがとう。」



「い、いえ……俺はただ……」



「ただ、なんて言える事じゃないわよ。」
「お粥まで作ってくれたんでしょ?」



「簡単なお粥しかできなかったので。」


「ねえ、理央君良かったら」
「今夜うちで晩御飯食べていかない?」


「えっ……?晩御飯……?」


予想外すぎて頭が真っ白になる。


「お礼がしたいの。」
「どうかしら?」

琴音ちゃんは布団から少し顔を出して、
不安そうにでも、嬉しそうに俺を見ていた。


「りっ……理央君どうかな?」

琴音ちゃんの甘えた声……。
これ期待しちゃっていいの?
でも琴音ちゃん無自覚だからなぁ……。


「琴音、理央君がいてくれる方が」
「安心するみたいね。」

琴音ちゃんのお母さんがそう言うと、
俺は一瞬で顔が熱くなる。

「いっ……いえ……あの……」
「じゃ、お言葉に甘えて、」
「ご一緒させてもらっても良いですか?」


琴音ちゃんのお母さんは、
嬉しそうに笑顔で頷いた。
この表情は琴音ちゃんにすごく似ている。
きっと琴音ちゃんの笑顔や顔は
母親譲りなんだと確信する。


「もちろんよ!」
「遠慮しないでね。」
「晩御飯準備するから、」
「少し待ってて。」


そう言って琴音ちゃんのお母さんは
キッチンにへ向かった。
琴音ちゃんの部屋には俺と琴音ちゃんだ
けが残った。
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