渋谷少女A続編・山倉タクシー

これは正夢…たいへんだ!

『幼女が、A子が呼んでいる…』と胸中に一言を云って、そのA子に引かれるように私は部屋の外へと出て行った。
 帰宅以来何時間が過ぎたのだろうか、出た表は寝静まっているようにも見える。鍵を閉めることも忘れてアパート側壁のオンボロ階段を降りて行く。川の手通りには5分もしない内に出た。その川の手通りと住宅街を仕切る鉄柵を手を掛けて乗り越え、車道の両側の鉄柵も越えて3メートルほどの高さの土手堤を登って行く。その際車の絶えた川の手通りを上流側からゆっくりと近づく一台の車があったが気にも止めなかった。アパートを出た時からそうだったが河畔まで来てみると何とあの悪夢でのシチュエーション同様に濃い靄があたり一面にかかっていて文字通り五里霧中といった感じである。土手堤の向こう側からこちらもやはり夢中同様に何事か人の云い争う声が聞こえてくる。男女複数のようだ。
「ちょっと、あなた。いま何をしていたんですか?!」
「何をって…何だ。誰だ?お前」
「いまこの女の子を川に投げようとしていただろ?!」
「バカ云うな。そんな事をする分けが…」
何だってえ…?女の子を川に投げ入れるだってえ?尋常ではない会話に総毛立つ。これではあの悪夢の再現、正夢ではないか。しかしこれは、今は、夢などではない現実のことなのだ。もしその女の子が件のあの女の子なら…私は血相を変えて堤を駆け登り河畔のプロムナードを凝視する。靄の中に黒い人影が数人浮かび上がってそこから尚も云い争う緊迫した声が伝わってくる。
「うるさいな。まったく…もういいよ。この気違い。放っとけよ。俺はもう行くぜ。おい明美(女の子の名前だろうがこの名前は驚くことに、直前の悪夢の中で聞いていた!)、こっちだ。行こう」
「いや」これはその幼い女の子の声だ。

【夜の隅田川河畔、これに夜霧がかかっていたとご想像ください。男女複数の云い争う声が聞こえて来たのは鉄柵の向こう、川の真近です】

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