渋谷少女A続編・山倉タクシー

まだ間に合います。さあ、立って!

「夢かあ…」と独り言ちながら全身に冷や汗を掻き息を荒げている自分を確認する。悪夢の余りのもの凄さに取り敢えず気を鎮めようと1本立てる。しかし立ち上る紫煙の間から見えるA子の肖像画がなお私を責めるようだ。思えばあのA子との奇跡の邂逅以来立ち直り、生き直そうと私はしたのだったが、云い分けにはしたくはないがこの今も隣にいるだろうアベック始め、ストーカーヤクザどもの執拗な追跡のお陰で、まったくそれが出来ないでいたのだ。そうこうするうちに20年になんなんとする月日は夢のように流れ、今は古希真近の身となり、心身ともにやつれ果てた身となっていた。昨今の流行り病もこれあり、八方塞がりとなっている。しかしこれではA子との邂逅往時の、あの車上暮らし時分と寸分違わぬではないか。まったく情けない!これは全体以前の夢中に現れたあの魔王アスラーの復讐、呪いだろうか…?などと思ってみたりもするが、そんな言い分けをも含めて、切迫した件の、夢中の少女への放ったらかしを眼前のA子の絵が責めるようだ。「そうだ、あの少女…」と今さらのように思いを致し悪夢の切迫感が胸中に戻る。すると、その胸の底から湧き上がるような言葉と情動があった。「魂と心と現実…」と偉大な方の声が甦る。かつての夢中に現れたアークエンジェル、そう、あの大天使の御声だった。「田中さん、あなたはその〝現実〟です。このままでいいのですか?魂(A子)も心(B子)もうち忘れて、情けない身のままでいるつもりですか?あの時と同じことをあなたに告げましょう。幼女を助けてあげてください。まだ間に合います。さあ、立って!」と言明された…ような気がした。言葉とも情動ともつかぬもの。胸の奥から突き上げるもの…。私は吸わぬままにいつの間にかフィルター近くまで短くなっていたタバコの火を灰皿に揉み消すと、スクっと立ち上がっていた。
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