渋谷少女A続編・山倉タクシー

無賃乗車

その頃も含めて私は余りにも世の中を生々流転とした人間だったから、どこでもいつでも人から鼻摘まみ者扱いされ、四面楚歌のような孤立状態にあるのが常だった。そんな中で殆ど彼のみが親しくしてくれていたのだ。なぜ親しくしてくれたのか、そこまでは判らなかったが、とにかく万年孤独の中で彼の存在はとてもありがたかった。
「ああ、山倉さんか。いやー、ちょっと思い出せなかった。ハハハ、失敬、失敬」
「いいよ、いいよ、そんなことは。それよりさ、今どこに行くの?仕事の帰り?家(うち)はよ。今どこに住んでんの?」片側二車線のうち一車線を完全に塞ぐ形になっていたので彼は他の車群を気にしつつ畳み掛けるように私に聞いて来た。現住所が南千住駅近くの日本堤であり今そこに帰るために浅草駅に向かっていることを手短に伝える。
「ああ、そう。南千住。だったら乗りなよ、車に。送っててやるよ」そう云って彼は後部左側の自動ドアを開けた。えーっ?とか云って恐縮する私に「いいから、いいから。早く乗って。無賃タクシーだからさ、大丈夫だよ。ハハハ。とにかく道塞いじゃってるから早く乗ってよ」とばかり有無を云わさない。嫌も応もなく私は吾妻橋の車道側欄干を跨いで越え彼のタクシーへと乗り込んだ。

    【突如現れた山倉タクシー、運転手はロバート・デニーロかミッドナイトか…】
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