夏と先生と初恋。
涼は何一つ悪くないのに。


悪いのは、上手くできないわたし。


わたしが涼に八つ当たりしているだけだ。



「…うん」



涼はまだ何か言いたそうだったけど、結局なにも言わずに教室を出て行った。




✳︎ ✳︎ ✳︎




決して音質がいいとはいえないスマホのスピーカーから流れる、わたしたちのものではない演奏。


流麗なクラリネットのソロ。


いいところを全て自分の譜面に書き込んでいく。


最近わたしは毎晩、色々な楽団や学校の吹奏楽部が演奏している、交響曲第5番「空」の音源を聴いている。


当然ではあるけれど、同じ曲でもそれぞれの団体で、雰囲気も、音色も全然違っている。


どれもちゃんと”個性”があって、その人がソロを吹く理由がしっかりと伝わってくる。


わたしはそれらを全部自分のものにしなきゃいけない。



「ひまり?まだ起きてるのか?そろそろ寝なさい」



今の時刻は3時を回ったところ。
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